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木下敏之の「自治体を変えるヒント」

第6回 自治体CIOは教育の情報化にも口を挟むべき

2009/01/05 日経BPガバメントテクノロジー

 前々回の第4回のコラムでは、都道府県CIOフォーラムでの講演録を掲載しました。「行政CIOに求められること」として、「(1)将来の人口推移を注視して政策を考える」「(2)トップのIT能力を高めるための努力を」という2つのポイントについてお話しました。今回は、この2つのポイントに勝るとも劣らない非常に重要なテーマである「教育現場における情報化」についてお話をさせていただきます。

 自治体のCIOは市長や知事部局のCIOですので教育委員会の専管事項である公立学校の情報教育に直接の権限はありませんが、その充実について、遠慮することなく意見を言わなくてはなりません。

 なぜなら、今、日本の学校現場で行われている情報教育は、米国や韓国と比べて大きく後れを取っており、社会のニーズについていけていないだけでなく、地域の経済格差拡大にも手を貸すことにもなるからです。

米国の小学校の授業はすべてが「情報教育」だった

 ちょうど1年前に、私はあるIT資格認定会社が主催している教育とITについてのフォーラムの企画をしました。そのフォーラムで、現在は中学校二年生の友人の息子さんが、2000年~2002年の3年間、幼稚園の年長組から小学校2年生まで米国オレゴン州の小学校に通っていた時の経験を話してもらいました。その内容は衝撃的で、彼は、米国で受けた教育は、「すべてが“情報教育”だった」と結論付けていました。

 そのときの講演資料から、の言葉をいくつか拾ってみます(一部言葉を補うなどしています)。

 「僕が通っていた学校はひとクラスの生徒数は、22~23名ぐらいでしたが、各クラスに7~8台のコンピュータがありました。そのほかに専用のコンピュータルームがあって、図書館にも多数のコンピュータが設置されていました。授業では、コンピュータを使用することが大前提になっていました」

  「特徴的だったのは、米国の学校では、いつでも自由にコンピュータを使用できることでした。今、僕が通っている日本の学校では、使える時間がきっちり定められていて、しかも使用するときには先生の付き添いが必要です。米国の学校とはまったく対照的だと思いました」

 「学校のホームページ内には各クラスの連絡用のページが設けられていて、例えば両親と先生とのやり取りや連絡事項の報告、問い合せなどはすべてeメールを通じて行います。さらに連絡用のページからは、宿題リストの確認や宿題のダウンロードまで行うことができました」

 カリキュラムの特色については省略しますが、米国の小学校では、プレゼンの機会が年に少なくても5~6回はあって、小学校3年生の後半にはPowerPointを使って行うようになったそうです。講演で彼は、PowerPointを使って実際にその時の発表を再現してくれました。

 米国のすべての小学校がこのような情報教育を行っていたわけではないかもしれませんが、彼の話は驚きの連続でした(しかもこれは6年以上も前のことです)。教育について興味のある方は、ぜひ、上記リンク先の講演資料をご覧いただきたいと思います。

韓国もうんと先を行っています

 では、お隣の韓国はどうかというと、今から10年前の1997年に、金大中(キム・デジュン)大統領が「韓国国民を世界で最もインターネットをうまく使いこなすことができる国民にする」という公約を掲げて当選し、小学校・中学校・高校のすべての教室にインターネット回線を引き、また全国の学校内に約1万3000室におよぶマルチメディア室を設置しました。

 教員のITスキル向上策も進めました。韓国政府は、全教員にパソコンを1台ずつ支給し、全教員の33%にあたる約13万人の教員に対して、毎年ITに関する研修を行っているそうです。

 また、親の経済格差による教育格差を是正するための取り組みとして、韓国にはEBS(エデュケーション・ブロードキャスティング・システム)と呼ばれるプログラムがあります。韓国内のカリスマ教師の授業を録画してテレビ放映するだけでなく、インターネットで全国に無料配信しているのです。

教育現場のハードの整備が遅れている現状

 日本の現状はどうでしょうか。文部科学省の調査によると、2007年3月時点での小中学校における教育用PC一台当たりの児童数は、全国平均で7.3人でした。その2年ほど前の2005年時点で米国は3.8人/台、韓国は5.7人/台でした。不思議なことに首都圏など都市部での整備が遅れており、都道府県別で45位の東京都は9.1人/台、最下位の神奈川県は10.4人/台でした。校内LANの整備率は、米国や韓国が100%に近いのに比べて、日本の平均は56.2%で、最下位の東京都は28.3%でした。

 首都圏のある公立小学校の話ですが、その小学校では、3年生ではコンピュータの授業はなく、4年生になってようやくPCを使った授業が始まります。しかし、児童3人が一台のPCを使うので、45分の授業時間のうち一人当たりの操作時間は15分もありません。

 教員のPC整備率も全国平均が43.0%で、半数以上の教員が自前のパソコンを学校に持ち込んでいる現状が裏付けられています。平成十五年度から「情報」の科目が高等学校の授業の必修になったにしては、また、ハイテク日本の基礎となる学校の現状としては、お寒い限りです。

 私が4年前にソウル市江南区の大谷小学校を訪問した時に見た光景は、すべての教室に50インチ程度の液晶パネルが設置されていて、教師の机の上にもPCがあり、たまたま見た音楽の授業では、PCで作曲するという授業をしていました。優れたIT教材は、他の学校も含めて教員間で共有されているそうです。

 本来は、パソコン室での授業だけでなく、普通教室での授業にもパソコンが使われていなくてはならないし、ITを活用してどのような内容の授業をするかということが議論されなくてはならないのですが、日本は内容以前の段階です。

高校における「情報」の授業の問題点

 千葉県のある高校の先生のお話によると、千葉県などでは、「数学」などの理系の先生が「情報」の科目を担当することが多いようですが、「情報」を担当する教員を確保するために必要な免許が15日間という短期間の講習だけで取得できる制度があったそうです。今ではこの講習はなくなりましたが、15日間で免許を取得された先生、あるいは、他の教科を主に教えていて「情報」を担当することになった先生のなかには専門的知識が十分でない方も少なくないとのことです。

 また、単位が年間わずか2単位(50分で一コマの授業が週に二回。年間35週なので、約60時間)ということもあり、実態として浅い指導しかできていない状況にあるようです。実社会では、ITに関するスキルの必要性が年々高まっているにもかかわらず、大半の高等学校は情報の単位は2単位で、それ以上時間を増やそうとはしないのです。

 情報処理学会は2006年11月に「高校教科『情報』未履修問題とわが国の将来に対する影響および対策」という提言を公表しました。ここでは情報教育の現状について数々の問題点を指摘していますが、今も大きな改善は見られないようです。

 2年前、必修科目である「情報」の未履修問題が大きく報じられました。なぜこうしたことが起きたかというと、大学入試センター試験で「情報」が受験科目にはなっていないからです。今では表に出てくる未履修問題はありませんが、残念なことにPCに向かう実習は「2単位」の中でのごく短い時間でしかありませんから、コンピュータの基本的な概念やワープロ、表計算、データベース、プレゼンテーション、インターネットなどの基本的な技術ですら取得するのは簡単ではありません。

インターネットをまったく使わない観光業者

 先日、秋田県のある自治体で「観光振興」をテーマにして講演をしてきたのですが、旅行者がホームページを通じて情報を得ていることを説明した後に参加者に聞いてみると、ほとんどインターネットを使わない人ばかりでした。こんなことでは、観光による地域の再生など夢物語です。IT能力の差は地域の経済力の差に直結するのです。

 企業誘致だってどれだけ優秀な学生がいるかが決め手ですし、地場の企業のためにも学校におけるIT教育の充実を図ることの重要性は、道路の整備などとは比較にならないほど重要です。

 行政改革などのコストダウンだけで地域の振興がうまくいく例はほとんどありません。どうやって自治体を豊かにしていくか。社会に出るまでに地域の学校でどこまでIT能力を高められるかは非常に大きなテーマだと思いますが、残念ながら日本の現状はお寒い限りです。教育、IT教育の重要性を認識し、予算と人材の配分を優先すべきことを自治体CIOは強く主張すべきではないでしょうか。

木下 敏之(きのした・としゆき)
木下敏之行政経営研究所代表・前佐賀市長
木下 敏之氏 1960年佐賀県佐賀市生まれ。東京大学法学部卒業後、農林水産省に入省。1999年3月、佐賀市長に39歳で初当選。2005年9月まで2期6年半市長を務め、市役所のIT化をはじめとする各種の行政改革を推し進めた。現在、様々な行革のノウハウを自治体に広げていくために、講演やコンサルティングなどの活動を幅広く行っている。東京財団の客員研究員も務める。
日本を二流IT国家にしないための十四ヵ条』(日経BP社)
なぜ、改革は必ず失敗するのか』(WAVE出版)。

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