プリンスホテルでCIO(最高情報責任者)の役割を担う伊藤利一情報システム部長

 国内外でホテル50以上と社員数8500人を擁する、プリンスホテル(東京・豊島区)のシステム導入プロジェクトが大詰めを迎えている。NEC製のホテル向けパッケージ・ソフト「NEHOPS」をベースにした基幹システムは、2009年3月までに全社で導入が完了する予定だ。伊藤利一情報システム部長は「器は作った。インフラ整備は終わりつつある」と手応えをつかんでいる。

 プロジェクトが2005年に始まってからの3年で同社の体制も大きく変わった。2006年2月にリゾート地のホテルやゴルフ場、スキー場を運営する旧コクドと合併するとともに、西武鉄道が所有していた首都圏のホテルも引き継ぎ新生プリンスホテルとして新たなスタートを切った。

 みずほコーポレート銀行からプリンスホテルのCIO(最高情報責任者)に転じた伊藤利一部長に求められるのは、システム構築プロジェクトの管理能力だ。プリンスホテルではこれまでの個々のホテルや部門がそれぞれに必要なシステムを小規模に立ち上げてきた。ベンダーとの交渉や進ちょくや予算の管理といったシステムプロジェクトのノウハウが社内には蓄積されていないという。ホテル経営では門外漢である伊藤部長は、銀行のシステム部門で長年培った経験を生かしてこの部分を強化していく。「IT(情報技術)面での“プリンススタンダード”といえるようなルールを作っていく。ただし、各ホテルの個性や自由を奪う“金太郎飴”状態は避けるつもり」と話す。

 プリンスホテルがITによって実現を目指すのは、組織的にデータを分析できる体制である。海外のホテルで導入が進んでいるレベニューマネジメントを実践していくという。将来の需要予測に応じて柔軟に客室単価を設定する販売戦略を指す。ホテルの客室は空き室になれば、売り上げはゼロになる。かといって稼働率を上げるために単価を下げては採算割れになったり、ブランド価値を損なったりする。同じ地区の競合や天気、曜日、周辺でのイベントなどあらゆる要素を加味しながら最適な価格設定を決めていく仕組みがレベニューマネジメントだ。

 伊藤部長は親会社、西武ホールディングス(埼玉県所沢市)でも執行役員、情報システム部長の要職にいる。鉄道や不動産、ホテルなどグループ86社に共通するITガバナンスのメカニズム作りが任務である。「各社がばらばらの方針で取り組んできたIT活用に横串を刺していけたら」と、ここでもホテル同様のルール作成の役目を担う。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・銀行員時代に海外拠点向けのシステムを手掛けていました。その時に利用部門のシステムに対するオーナーシップが大切であると学びました。経営トップや利用部門にもシステムはIT部門のものではなく、自分たちのものと感じてもらえるように分かりやすい説明を心がけています。システムは活用されないと意味がありませんから

◆ITベンダーに対し強く要望したいこと、IT業界への不満など
・「絶対ちゃんと動きます」と自信満々に言い切らなくてもよいので、発言の根拠になるプロセスを明らかにしてほしい。また、業務フローを理解したうえでの踏み込んだコンサルティングを求めています

・社内の利用部門が施主ならば、ITベンダーは大工さんです。情報システム部は一級建築士のように両者を橋渡しする存在でありたいと思います

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞
・日経ビジネス
・日経コンピュータ

◆最近読んだお薦めの本
・『戦略の本質 戦史に学ぶ逆転のリーダーシップ』(野中郁次郎、戸部良一、鎌田伸一、寺本義也、杉乃尾宜生、村井友秀 著、日本経済新聞出版社)
・『坂の上の雲』(司馬遼太郎 著、文藝春秋)

◆仕事に役立つお薦めのインターネットサイト
・ITpro
・ITmedia

◆ストレス解消法
・ジムのサウナに行くことです