英国の規制監督機関であるオフコム(Ofcom)は2008年8月28日,今後の市場環境変化にかんがみ,携帯電話事業者に代表される移動通信セクターの規制アプローチの見直しに踏み出した。具体的には広範囲の問題に対し,一般の意見を募る「コンサルテーション」を開始。想定されるシナリオやその影響を考察する。

(日経コミュニケーション編集部)

 オフコムの「コンサルテーション文書」は特定の規制変更を提案しているわけではなく,様々な問題を提起することで,関係者の議論を喚起する形を取っている。この方法は,オフコムが2004年に実施した「戦略的レビュー」と同様である。

 戦略的レビューの議論は,英BTの自発的な機能分離(アクセス回線提供事業者であるオープンリーチの誕生など)を導くなど,その後の英国の通信環境に大きな影響を与えた。今回も同様に,コンサルテーション文書を見ることで,今後の英国における移動通信セクターの方向性が見通せる。

4パターンの発展シナリオを想定

 オフコムは移動通信市場の動向について様々な側面から検討している。これらは,消費者保護,対消費者情報,緊急通報アクセス,ユニバーサル・サービスにおける移動通信の役割,今後の着信料規制およびローミング規制,第2世代携帯電話(2G)および第3世代携帯電話(3G)のカバレッジ,周波数開放など多岐にわたる。

 オフコムの公開データによると,移動通信セクターはここ数年で驚異的な成長を遂げている(図1)。現在,携帯電話の契約数は,英国の人口約6000万に対して約7000万契約であり,普及率は100%を超えている。

図1●英国の携帯電話普及率の推移
図1●英国の携帯電話普及率の推移
携帯電話の契約率は2004年以降100%を超えており,人口以上の契約数が存在することが分かる。

 こうした成功への道筋において,オフコムは競争政策が重要な役割を果たしたと分析。その上で,今後も機会があれば移動通信セクターの規制緩和に努めたい,としている。さらに将来的には,移動通信との競争の激化に直面すると予想される固定通信分野でも,迅速に規制緩和を進める可能性を示唆している。

 オフコムは,今後5年以降の移動通信ネットワークの発展として,4パターンのシナリオを描いている。

シナリオ1:現在の発展形態が持続。市場の傾向に大きな変化はない。
シナリオ2:固定音声サービスから移動音声サービスへの移行が加速し,最後には凌駕する。
シナリオ3:モバイル・インターネットがマス市場化し,モバイル・データ・サービスが大きく成長する。
シナリオ4:データ通信技術,知的所有権処理のコストが安価となり,現在の移動通信サービスのビジネスモデルを超えた多様なサービスが生まれる(図2)。
図2●ビジネスモデルの発展例とその影響<br>「SIMポータビリティ」を実現した場合のビジネスモデルの例を示した。本文のシナリオ4に相当する。
図2●ビジネスモデルの発展例とその影響
「SIMポータビリティ」を実現した場合のビジネスモデルの例を示した。本文のシナリオ4に相当する。
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 さらにコンサルテーション文書では,大きく4点の質問を掲げ,関係者の意見を募っている。(1)市場の変革が移動通信サービスにどのような影響を与えるか,(2)消費者および一般市民が,移動通信サービスの発展からどのような影響を受けるか,(3)オフコムによる移動通信規制は何を目的とすべきか,(4)規制緩和・競争・イノベーションがそれぞれどの程度まで進むと見通されるのか──である。