前回に続いて,今回も「GMS(総合スーパー)業界二強」といわれるセブン&アイとイオンの問題を取り上げます。まずは,前回の図2を再掲するところから話を始めましょう(図1)。

図1●セブン&アイ,イオンの4種類の売上高推移
図1●セブン&アイ,イオンの4種類の売上高推移
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「実際売上高は実績に基づくものだし,損益分岐点売上高はイメージとしてつかめるけれど,予算操業度売上高と自然売上高はかなり難しいものがありますね」

 自然売上高については,拙著『戦略ファイナンス』291ページで,以下の3つの性格を挙げました(図2)。

図2●自然売上高の特徴
図2●自然売上高の特徴

 自然売上高は奥の深いものがあるので,ここでは予算操業度売上高に注目します。

 セブン&アイ・ホールディングスは2005年9月に設立された「若い会社」であり,決算データが少ないので,ここではイオンの決算データから得られた売上高の推移を示すことにしましょう(図3)。

図3●イオン:4種の売上高の推移比較
図3●イオン:4種の売上高の推移比較

「なるほど,実際売上高はこの3年半の間で,4兆円から5兆円へと緩やかな上昇を見せているけれど,予算操業度売上高は大きく波を打っていますね」

 図3で指摘できるのは,イオンの場合,2005年5月期,2006年5月期,2007年5月期といったように,毎年,春季(3月~5月)に予算操業度売上高が顕著な上昇を見せている点です。特に,2006年5月期と2007年5月期では,自然売上高が下から突き上げるような形で実際売上高に肉薄しています。

 アナリストやコンサルタントを自認する人であれば,イオンにはなぜ,こうした周期性があるのかに注意しながら,レポートを書くべきでしょう。前回のコラムにも掲載した図1を見て「イオンは増収減益傾向にある」と,したり顔でコメントを述べたり,実際売上高やROA&ROEなどを見比べたりしているだけでは,イオンの経営戦略の深層を探ることはできません。

減産と低価格品が現出する「コストのドライブ効果」

 今回のコラムで呈示した図1や図3は,実際売上高とともに予算操業度売上高を変動させたものです。この予算操業度売上高の基礎となる予算操業度は,拙著『戦略会計入門』41ページで述べたように「短期的には動かすことができないと仮定した場合の利用度」を指します。その予算操業度の下における実績は,実際操業度といいます。

 予算操業度と実際操業度の関係から「操業度率」を求めることができるので,予算操業度売上高と実際操業度売上高の関係からも操業度率を求めてみます。算出式は以下のようになります(図4)。

図4●操業度率の算出式
図4●操業度率の算出式

 操業度率の推移を表すと,図5のようになります。イオン,セブン&アイのほか,ユニーとダイエーの操業度率も描き加えています。

図5●GMS(総合スーパー)4社の操業度率の推移比較
図5●GMS(総合スーパー)4社の操業度率の推移比較

「ダイエーは論外として,セブン&アイとユニーの操業度率って,安定していますね」
「セブン&アイの操業度率は,常に100%を超えたところにあるぞ」

 決算データが月次ベースのものではなく四半期ベースのものなので,不正確なところはご容赦いただくとしましょう。

 2008年はサブプライムローン問題を発火点として,企業活動は景気後退色で染まりました。多くの企業では「減産」が合い言葉となり,非正規社員の解雇を中心とした「コスト削減」が行なわれています。短期的には効果のある策なのでしょう。

 しかし,減産は第57回コラムで紹介した「コストのドライブ効果」を強烈に引き起こします。その効果があるが故に,企業が想定する以上の「操業度率の低下」を招きます。近年,小売業界では低価格品がブームになっており,これもまた「コストのドライブ効果」を,より一層強く現出します。そうなれば,操業度率はもっと低下するはず。