本誌の読者であれば,携帯ビジネスが成熟期を迎え,大きな曲がり角に差し掛かっていることを十分ご存知だろう。総務省はそんな携帯ビジネスを次のステージへと導くべく,MVNO(仮想移動体通信事業者)の参入促進や分離プランの導入,さらにはプラットフォームの議論など,立て続けに改革のメスを入れている。本書はそのような動きをフォローしつつ,オープン化と水平分業が浸透することによる携帯ビジネスの新たな可能性や,改革を推し進める勢力(総務省や新規参入時業者)と既得権を死守しようと抵抗する勢力(既存の携帯電話事業者)の攻防を,余すところなく記している。軽快な語り口と裏話を多く含んだ文章で,ぐいぐいと読ませる。

 著者の真骨頂は,あくまでエンド・ユーザーの視点を失わず,携帯ビジネスの現状に対して次々と疑問を呈していく点だ。例えば,NTTドコモがこの秋冬モデルから始めた生活支援型サービスなど,携帯電話事業者が狙うライフログを活用したビジネスについて,「どこか気持ち悪さを感じる」と指摘する。

 著者は違和感を覚えるポイントとして,「インターネットのようにオープンな自由競争の環境でサービスを開始するのであればいい。だが垂直統合型モデルの壁を取り払わないまま,優先的な地位の乱用とも言うべきやり方でこのようなサービスを始めるのは,どこかおかしくはないか」と主張する。このような意見は誰もが納得するところだが,メディアの多くで見ることは稀だ。それだけメディアがキャリア寄りの論理に影響されてしまっている証であり,本書の価値はそんな著者の立ち位置の確かさにあるだろう。

 大臣裁定まで話がこじれた日本通信とNTTドコモのMVNOを巡る争いに至っては,関係者への緻密な取材によって得たであろうディープな裏話が満載だ。ドコモと日本通信,さらに総務省の丁々発止の攻防は実に読み応えがある。最終的にドコモが「帯域幅課金で10Mビット/秒当たり1500万円」というMVNO向けの接続料金を出して決着したのは,「業界が大混乱に陥らないために,ドコモと日本通信,総務省の間の阿吽の呼吸でソフトランディングを目指した結果」と結論付ける。本書のテーマの一つである携帯電話の接続料の原価について,闇の多い部分へ果敢に迫っている。

 本書では,一見すると理解しにくい総務省でのプラットフォームの議論を,平易な言葉で分かりやすく説明している。総務省がモバイルビジネス改革で何を目指しているのか,その先にある将来を知りたい人にとっては最適な書となっている。「オープン化と水平分業によってモバイル業界にインターネットと同じように新たな血が流入し,たくましく育っていって欲しい」と述べる著者には,多いに同意するところだ。

ケータイ料金は半額になる!

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山崎 潤一郎著
講談社発行
1365円(税込)