「小林さん,十二支は最後まで言えるようになりました?」
「なに,また先月の話の続き? しつこいね,鶴橋さんも。僕はね,こう見えても,文学部出身だけどけっこう理系の人間でさ」
「何の話です?」
「たとえば,元素の周期表って覚えてる? あれ,けっこう言えちゃったりするんだよ」
「自慢ですか? じゃ聞きますね。硫黄の元素記号は?」
「イオウ・・・,えーと,Sだ」
「正解。でも本当に詳しいんですか? あやしいな。それじゃタングステンは?」
「タングステンは,T・・・,Tじゃなかったか,えーと」
「もういいですよ。早く11月のベストに行きましょう」

「長い間,真夏の高気圧のように不動だった1位に変化がありました!」
「季節はずれのたとえですね。『たった3秒のパソコン術』に替わって,三笠書房の『「脳にいいこと」だけをやりなさい!』・・・って,これコンピュータ書なんですか?」
「ニューラルネットワークとか認知科学なんかに関連して,脳科学もうちの分野なんだよ」
「著者は,今をときめく茂木健一郎先生・・・」
「ではなくて,マーシー・シャイモフ,米国の女性カリスマ・コーチだそうだ。でも,帯の写真を見ると,まるで訳者である茂木先生がお書きになられたように見えるよね。脳を活性化する具体的な生活方法を紹介する内容だけど,この本がここまで売れたのは,訳者の茂木先生の力が大きかったといえるだろうね」
「ふーん」

「さて,今月は少し早足でいくよ。2位がオーム社の『マスタリングTCP/IP 入門編』。ずっと安定してよく売れている本だね。今の時期,ネットワークとかLAN,サーバー関係の本がよく出ている」
「あとExcelとかWordとかのアプリケーション関係もよく売れていて,棚の補充が大変ですよ」
「3位は先月2位だった翔泳社の『クラウド化する世界』。4位は,日経BP社の『IT業界のための『工事進行基準』完全ガイド』。5位は三笠書房の『たった3秒のネット術』」
「先月までずっと1位だった,同じ三笠書房の『たった3秒のパソコン術』は7位ですね」
「6位が日経BP社の『すべてわかる仮想化大全』。仮想化に関する本がベストに入っていることをちょっと覚えておいてね。8位が技術評論社の『24時間365日サーバ/インフラを支える技術』。これも息が長い。そして9位がソーテック社の『ITサービスマネジメントの仕組みと活用』」

「今回は本当に駆け足ですね」
「うん,でも実は今月は,こっから先に出てくる本を紹介したいんだ。10位は翔泳社の『VMWare徹底入門』。6位の『すべてわかる仮想化大全』に続いて,仮想化関連のソフトの解説書として発売以来よく売れている。VMWare関連の書籍はこれまでも出ていたけれど,最新の書籍というだけではない,本格的な解説書として評価されているんじゃないかな」
「厚くて値段も高めなのに,よく出てますよね」

「そして11位は,秀和システムズの『ゲームプログラマになる前に覚えておきたい技術』」
「わたし,これ最初に入ってきた1冊を自分で棚にさしたんです。そしたら,5分後にその本が売れて,それですごく印象に残ってるんですよ」
「この本は,セガの新入社員向けの教育内容を書籍化したものなんだ。ゲームプログラミングについての本はそれこそ山ほど出ているけれど,正直内容はわりと高度で,とっつきにくい面もあったかもしれない。でも,プログラミングに詳しくない人にもわかるものを作らなくてはならないというので,丁寧な記述がここまで本を厚くしちゃった。出版社では12月の半ばに重版をかけるけれど,それももう予約でいっぱいだそうだ」
「刊行が11月の半ば頃だったから,ベストの上位に食い込むほどには数がまとまらなかったんですね」
「そう,だからもう少し早い日付で刊行されていたら,ベスト3には入っていたかもしれない。12月の売れ行きが楽しみな本だね」

「ああ,でももう12月なんですね」
「年末は本屋も忙しい時期だから,鶴橋さんもがんばってね」
「はいはい。ところで小林さん,タングステンの化学記号,思い出しました?」
「え,・・・しつこいな」
「駄目ですか。Wですよ,タングステンは」
「W・・・。なぜW?」
注:アルバイトの鶴橋さんはもちろん,小林君も(偶然筆者と姓が同じというだけで)架空の人物です。