ARの端末として携帯電話以外では,携帯型ゲーム機やカーナビゲーション・システムの利用が検討されている。いずれもカメラとディスプレイ,通信機能,GPSなどを利用できるからだ。カーナビではHSDPAに対応したパイオニアの「AVIC-T10」など通信機能を備える製品が登場している。最近の自動車はカメラを搭載する車種が増えており,「車載カメラの映像を使える」(NAISTの加藤教授)。
ARの研究でよく使われるHMDは,技術開発によって進化している。現在の常識では一般のユーザーがHMDを付けて街中を歩くといった光景は想像しにくいが,これを利用するための取り組みは着実に進展中だ。
オリンパスの未来創造研究所は小型で無線通信機能を備えたHMD「モバイルEye-Trek-慧眼」を試作した(図1)。眼の瞳孔よりも小さい“光学バー”に映像を映すことで,視界の中に映像が浮かび上がって見えるものだ。
従来のHMDをARで使う場合はビデオ透過型や光学透過型の製品を利用したが,いずれもゴーグルのような外観で,サイズが大きかった。モバイルEye-Trek-慧眼は小型化によって,装着して街に出てもそれほど違和感のないデザインとなっている。
オリンパスでは同HMDで様々な情報を受信・表示するARシステムとしてインスパイア型ユビキタスサービスを開発している。中央大学と共同で,今年2月に東京都文京区を舞台とした実証実験を行った。実験ではHMDをGPS,加速度センサー,小型ノート・パソコン,無線データ通信サービスなどと組み合わせ,位置情報と実験参加者の好みに応じて,文京区の観光スポットや店舗に関する情報をHMDに適宜表示した。
ドコモやKDDIも研究中
携帯電話事業者のAR研究には商用サービス間近のものがある。
KDDI研究所が10月に公開したのが「実空間透視ケータイ」だ(写真1)。GPSと加速度センサー,地磁気センサーを使い,カメラを向けている方向を認識。その方向にあるビルやレストランの情報を検索して,表示する。レストラン情報には「ぐるなび」のデータを使う。
同アプリの特徴は,カメラの映像ではなく3次元CGを使うことと,鳥瞰的な視点で検索できることだ。アプリの完成度は高く,KDDI研究所によれば1~2年内の商用化を目指しているという。
NTTドコモの先進技術研究所は,これよりも将来を見据えた研究に乗り出た。同研究所が昨年秋から研究している「メガネ型ディスプレイ」である(写真2)。
これはビデオカメラを装備したHMDを装着すると,マーカーを付けた任意の平面(ノートなど)をディスプレイと見なし,映像を投影できるもの。映像を映し出すだけではなく指の動きを認識するので,指を使って画面内のボタンを押したり,サムネイル画像を選択したりといった操作も可能だ。
LTEなどが普及し,携帯電話がさらに多くの情報を扱えるようになると,大きな画面のユーザー・インタフェースが求められる。同技術の実用化はだいぶ先になりそうだが,そのようなニーズを見越して研究開発を進めているという。