最近では,パソコンではなく,小型の端末を使う様々なARの試作システムが登場している。デバイスに携帯電話を使うものとしては頓智・(「とんちどっと」と呼ぶ)の「セカイカメラ」,HMDを使うものではオリンパスの「インスパイア型ユビキタスサービス」などがある。
セカイカメラは今年9月に米国で開催されたネット・サービスのビジネス・コンテスト「TechCrunch50」で発表され,米アップルのiPhoneとARを組み合わせたサービス像が話題を集めた。実際に動くアプリケーションがまだ公開されていないため実現を疑問視する声はあるものの,披露されたイメージ・ムービーは携帯電話によるARの大きな可能性を見せつけた(写真1)。

頓智・の井口尊仁社長は,「例えば駅の中の『モバイルSuica』のポスターをセカイカメラで見ると,(モバイルSuicaのマスコットである)ペンギンが出てきてその場で使い方を教えてくれる,といったサービスを実現できる」と説明する。
携帯電話の内蔵カメラで場所やモノを撮影して,関連情報を表示するといったARアプリケーションはほかにもある。NECマグナスコミュニケーションズの「OneShotSearch」や,独コブレンツ・ランダウ大学のマックス・ブラウン氏とラファエル・シュプリング氏がAndroidエミュレータ上で開発した「Enkin」などだ。
これらアプリケーションはいずれも,(1)携帯電話端末が内蔵するGPSや地磁気センサー(電子コンパス)などを使い,携帯電話の位置とカメラが向いている方向のデータを取得,(2)それを携帯電話のデータ通信サービス経由でサーバーに送信,(3)サーバー側で位置と方向データを基に関連情報を検索し,関連データを端末に送信,(4)端末で映像の上に描画する,といった仕組みを取り入れている(図1)。
携帯電話はHMDなどと異なり,キーボードやマイクなど各種の入力装置を備える。このため,検索だけではなく,ユーザーがテキストや音声などの情報を入力し,特定の空間に貼り付ける操作が可能になる。これは端末の位置や方向データとともに,文字や端末で録音した音声,撮影した画像をサーバーに送るだけで実現できる。
例えば,「待ち合わせで来たが相手が見当たらないのでその場に“伝言”を置いてくる。後から来た相手がその伝言を確認できる」(NECマグナスコミュニケーションズの山崎順一・市場開拓推進部主任)といった使い方が考えられる。レストランの前にそのレストランの感想を貼り付け,他の人がそれを閲覧できるようにする,といったサービスもあり得る。
パソコンのWebブラウザから使う既存の地図情報サービスも位置情報とデジタル情報の組み合わせを実現している。ただ携帯電話とARを使うサービスには,“実際にその場所”で,端末がとらえた映像に情報が“オーバーレイ”されるところが画期的だ。
実用水準の試作アプリも登場
NECマグナスコミュニケーションズは米ジオベクターの技術を使い,携帯電話で動く様々なARアプリケーションを開発中だ。OneShotSearchはカメラで写した方向にあるレストランやホテル情報などを検索して表示するアプリで,現時点で実用的な水準に達している(写真2)。
他にも同社はARを使うゲームを開発する(写真3)。これは空間内のどこかに“隠れている”キャラクタを,携帯電話を動かして見つけるというものだ。
携帯電話はCPUやカメラ,ディスプレイの高性能化だけではなく,様々なデバイス,センサーを内蔵し始めている。au(KDDI)の「G'zOne W62CA」など,最新の携帯電話は3軸地磁気センサーと3軸加速度センサーを内蔵しており,計6軸のセンサーを使ってカメラを向けている方向をほぼ正確に検出可能だ。このような機種が増えてくれば,ARサービスの実現が容易になってくる。