米国では1970年代後半から1990年代後半に生まれた若者を「ミレニアム世代」と呼ぶが、彼らの職場への進出はベビーブーマー世代(1940年代後半から1960年代前半に生まれた人々を指す事が多い。日本では団塊世代と比して語られる)が多いIT職場に一種の文化摩擦を引き起こしている。

 だが、州レベルで見れば今後5年間に全職員の34%が年金の受給資格をもらい、徐々に定年退職することが確実になっている。職場の世代交代、つまりミレニアムの若者の採用が目下の急務となっている。

 全米州CIO協会(NASCIO)の年次総会が9月21~24日にミルウォーキー市(ウィスコンシン州)におけるセッション「次世代が働きやすい職場」ではベビーブーマー世代の3氏が、自らの体験談を披露ながら意見交換を行った。州CIOのD・ロス氏、IT企業に勤務し行政CIO経験者でもあるR・マッキニー氏、若い層を中心に行政への関心を高めるための各種の活動を企画・運営しているR・ラビーニャ氏が、それぞれの立場からミレニアム世代への対応について語っている。以下はその要約である。(石川幸憲=在米ジャーナリスト)

次世代が働きやすい職場(Making Your Workplace Next Generation Friendly)

パネリスト:
 ダン・ロス(Dan Ross) ミズーリ州CIO
 リチャード・マッキニー(Richard McKinney) Government Technology Advisor, Microsoft
 ボブ・ラビーニャ(Bob Lavigna) Vice President, Research, Partnership for Public Service

* Partnership for Public Serviceはワシントンに本部を置く非営利団体。若い層を中心に行政への関心を高めるための各種の活動を企画・運営している。

セッションの様子
[画像のクリックで拡大表示]

ロス氏 今、嵐を迎えようとしている。一つは技術系を目指す若者が少ないことです。とりわけ女性にその傾向が強い。二つ目に、州政府は給料の面で民間企業と競争できない。三つ目に、ミズーリ州では今後10年間にIT担当者の6割が定年退職期を迎えることになっています。若者の採用が急務です。

 それでも何人かの青年を採用したが、自分たちとは違うという印象を受ける。文化が違うようだが、ミレニアム世代は職場に何を期待しているのだろうか。

ラビーニャ氏 決め手になる解決策はありません。大学3年生4年生に聞き取り調査したところ、半分以上(53%)が「官僚的過ぎる」ので公務員にはなりたくないと答えています。そのあとに「行政職の内容が分からない」「給料が安い」などの回答が続きます。

 一方で 4万人の大学生に希望職種を聞いたところ、公務員が16%でトップという結果も出ています。その理由として、仕事と生活のバランス(64%)、安定性(45%),やりがい(44%)それにチャレンジ(39%)などが挙げられました。

 公務員の価値や広範な職種があることを大学生に理解してもらえれば、行政は魅力のある職場でしょう。文化を少し変えるなどしてマイナス面を減らし、プラス面を強調することが必要なのではないでしょうか。

マッキニー氏 私がナッシュビル市(テネシー州)のCIOだった時に、IT部門の再編を行い、若い人を雇う機会がありました。ミレニアム世代の4人の新人を一緒に働かせ、トップにはベテランを置きました。新人は入れ墨をした今風の若者だが、ものすごい戦力になった。ある日、彼らの部屋に行くと天井からディスコ風のミラーボールが吊り下げられ、スモークマシーンからの煙が蔓延していました。「プロジェクトの成功を祝ってパーティをやっている」との説明だった。

 彼らは優秀で生産性が高く、残業代が出なくても毎晩遅くまで仕事をするのを知っていたので、私は気にも留めませんでした。数日後、ベビーブーマー世代の職員が私に会いに来て新人グループの振舞いを咎めました。文化摩擦です。

 遅かれ早かれこの世代が主役になるわけですから、問題は移行の仕方だと思います。われわれが死ぬまで世代交代を拒否し続けるのか、いま受け入れるかの選択ではないでしょうか。

ロス氏
 若い世代もわれわれと同じものを求めているのではないでしょうか。上司に仕事振りを認めて貰いたい、仕事を通じて社会に寄与したいと考えている。尊敬を受け、仲間にも入れて貰いたいと思っているのではないでしょうか。

マッキニー氏 私には子供が5人いるが、大学を卒業したばかりの末っ子の娘は典型的なミレニアム世代です。私たちとは違って、テクノロジーと生活がひとつになっている世代です。求職活動にしても、ネットでサーチし、自分で見つけるのが自然になっています。娘に言わせると、「私の世代にはテクノロジーと生活が切り離せなくなっている。これを分離させるような職場で働くことは不可能」とのことです。

ロス氏 テクノロジーと生活が一体化していることに疑問はないが、CIOとしてはWeb2.0サービスによる情報漏洩やウィルス感染が心配になります。セキュリティー問題をどのように対処すればよいのでしょうか。

マッキニー氏 過去にも技術的なチャレンジを克服してきた実績があるので、問題は解決しようとする意思があるかどうかではないでしょうか。そのような環境を安全にするために時間を割くかどうかです。

大学生は行政職に関心が高いが、理系の志望者は少ない

 私が勤務しているマイクロソフトはハッカー攻撃に常時さらされている企業ですが、そこで働く人たちはネットを使って自由に外部の世界にアクセスしています。それでもシステムの安全性は維持されています。このように技術的には可能なわけですから、自治体でそうした職場環境を作れない理由はないでしょう。

ラビーニャ氏 IT分野での人材の奪い合いほど熾烈なものはありません。最新のリサーチによれば、IT分野で公務員になる人は、他の職種と比較して社会に貢献しようという意思が強いとされます。ですから、彼らにやりがいのある仕事を任せ、昇進の機会も与えることが必要なのではないでしょうか。

ロス氏 私の局では欠員が88にもなる。この流れをどう止めたら良いのだろうか。

ラビーニャ氏 ミレニアム世代のリサーチは随分やっています。大学生が行政職にかなり強い関心を持っていることは事実だが、理系の学生に希望の就職先を尋ねると公官庁志望は少数です。その理由は、行政がITの専門家を雇うことを知らないことです。課題はこのギャップを埋めることと、採用決定まで数カ月かかる現在の人事システムを改めることです。

 最後に、若者だけでなく、中高年の経験豊かな人材を外部から中堅や幹部として採用するかも課題になっています。例えば、連邦政府を見ると、今後10年間で管理職の半分が定年退職する。2015年までに5年間で3分の1の現在の国家公務員の3分の1が辞めると見込まれています。

 現在IBMと我々で実験的なプロジェクトに取り組んでいる。IBMの平均退職年齢は54才なので、第二の人生として退職後に財務省などの国家機関に再就職させようという目論みです。民間出身のベテランが公務員になれば、行政の文化が大きく変わるのではないでしょうか。