競争が厳しくなるなか、リーダーが備えるべき能力や特性である「リーダーシップ」の重要性が高まりつつある。リーダーシップというと他者をコントロールするイメージが強いが、経営者向けコーチングを手がける著者は「本来リーダーシップは自分を変えることで初めて機能するものだ」と主張する。自己変革に重きを置く「内省型リーダーシップ」の特徴と、内省型リーダーシップが組織にどう好影響を与えるかを解説する。

永井 恒男 野村総合研究所 コンサルティング事業推進部 イデリアチーム 事業推進責任者 上級コンサルタント

イラストレーション:AKIRA
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 ユーザー企業のわがままにベンダー側の担当部長がノーと言い切れず、突然の仕様変更に応じざるを得なくなった。プロジェクトマネジャがパートナー会社とのコミュニケーションを怠ったため、土壇場になって突貫作業を進める羽目に――。リーダー格である人間の態度や行動に問題があったために、トラブルを招いた例だ。皆さんもきっと覚えがあるだろう。

 企業には様々なリーダーが存在する。経営者、ラインをまとめ上げる部長や課長、プロジェクトをけん引するマネジャはいずれも、人に指図しチームとしての成果を出すことを課せられたリーダーである。リーダーの采配いかんで、組織やプロジェクトの先行きは大きく左右される。

 特にシステム開発プロジェクトでは、リーダーであるプロジェクトマネジャが果たすべき役割は大きい。異なる組織、異なる立場の人々が一堂に会し、多くの場合は短期間で集中的に成果を出さなければならない。目的を遂行するためにプロジェクトマネジャが考えるべきことは山ほどある。システム要件やコストに加え、人の問題に気を配らなければならない。「やるべきことをやっているのに、なぜそんなことを言うのか」「それは契約の範囲外だ」といった反発をたしなめつつ、メンバーをチームとして連携させ、プロジェクトを完遂に導く責任がある。

人を変えることがリーダーシップ?

 いま、こうしたリーダーが備えるべき「リーダーシップ」が注目されている。IT分野はもちろん、日本企業全体で関心が急速に高まりつつある。

 リーダーシップとは人を動かす能力や特質を指す。リーダーシップを「他人を自分が良かれと思う方向に変えるスキル」と考える人が多いようだ。その認識は必ずしも間違ってはいない。

 いま、仕事に対する部下のモチベーションが下がっていることに気づいたとしよう。親分肌のリーダーを自認しているのであれば、「期待しているよ!」と部下に直接声をかけたり、ガス抜きを狙って飲みに誘ったりするだろう。

 良き兄・姉のようなリーダーを自覚しているのであれば、まずは周囲の人に探りを入れて情報を収集するかもしれない。部下に声をかけるときも一方的に話すのではなく、コーチングスキルを使って「最近仕事は楽しいかい?」などと柔らかく接するだろう。

 多くのリーダーは、親分肌アプローチと良き兄・姉アプローチの双方を使い分けている。部下の性格や置かれた状況を考慮して接し方を変えて、部下のモチベーションを高めようとする。その結果、部下が仕事のやりがいや価値を見いだすことにつながれば、状況は改善するはずだ。

 しかし、モチベーションが下がっている部下の立場で考えてみてほしい。理想と現実の差に落胆し、尊敬し目指すべき上司も見当たらない。仕事の先行きにも希望が見いだせない。そんな状況で、リーダーに「やり続ければきっと何か見えてくるよ」「今の仕事にもこんなに楽しいところがあるじゃないか」などと個人的な価値観を押しつけられても、モチベーションが上がるはずはない。