「せっかくソフト会社を誘致しても、魅力的な“コンテンツ”がなかったら、定着に結び付かない」。

 こう語るのは岐阜県にあるNPO法人、ドットNET分散開発ソフトピア・センターの戸田孝一郎理事だ。戸田氏が言うコンテンツとは、ソフト会社を誘致するための支援策のこと。産業振興の一環から岐阜県は約10年前、「ソフトピア」と呼ぶIT産業の振興策を打ち出し、約100社を超えるソフト会社を誘致した。しかし、すぐに移転してしまう例もあった。

 「工場を構える製造業は一度進出すると、なかなか移転しないが、ソフト会社はオフィスに机と人しかないので移転も容易。税制の優遇やITインフラの整備、オフィスビルの用意といった支援策を打ち出しても、もっといい場所や優遇策があれば、ソフト会社は簡単に出て行ってしまう。魅力ある支援策を考えて、岐阜県で活動するメリットをもっとアピールしないと、ソフト会社の誘致は成功しない」と、経営コンサルティング会社の戦略スタッフ・サービス社長でもある戸田氏は言う。

 戸田氏が考えたのは、ソフトの開発技術に関連する分野での支援策だ。

 「製造業の生産技術のように納期や品質、コストの三つをテーマにしたモノ作りを意識し、ソフトピアに進出すれば、ソフト開発の生産性を高めることができるようにしたい」(戸田氏)と言う。

 戸田氏がソフト開発の生産性向上を意識する理由は、岐阜県のためだけではない。根底にあるのは、このままでは日本のソフト会社がインドや中国のIT企業に駆逐されてしまうのではないかという危機感だ。

 「今後はインドや中国の会社並みの価格で案件を受けざるを得ない時代が到来するかもしれないが、それはどうしても避けたい」と戸田氏。

 こうした状況に対抗するには、ソフト開発の生産性を大幅に向上させるか、他ではまねのできない技術力を身に付けるかしかない、と戸田氏は考えた。