東邦チタニウムのCIO(最高情報責任者)である加古幸博・常務執行役員業務本部長

 チタンや触媒、電子材料などの製造を手掛ける東邦チタニウムは、2008年5月ごろに新システム「インゴット生産管理システム(IPS)」を複数の工場で稼働させた(関連記事)。CIO(最高情報責任者)に当たる加古幸博・常務執行役員業務本部長は、「素材産業は好不況の波が大きい。ここ5年はフル生産が続いたので、システムがなくても需給調整はしやすかった。むしろ不況になった時にこそ効果を発揮するはず」と話す。新システムは、インゴット(チタンの延べ棒)の受注に対して、2つの工場で調達・生産計画・在庫・物流などを管理し、受注の増減に機敏に対応しやすくするものだ。

 ここ数年のチタン市場は活況で、同社は2008年3月期まで5期連続で増収増益だった。ただ、今期(2009年3月期)は世界経済の減速や、航空機引渡し遅延などの影響を受けて、増収を維持するものの減益を見込む。

 軽量のチタンは環境負荷に配慮した航空機などの材料として中長期的には需要増加が見込まれる。同社は神奈川県茅ヶ崎市の本社工場に加えて、2008年4月に北九州市に新工場を立ち上げた。

 そんななか、今回の新システムの投資額は推定5億円前後で、東邦チタニウム創業以来最大のシステム投資だった。検討が始まった2006年5月ごろ、生産管理は人手に頼り、複数の人で手分けして確認作業などをしていた。当時増産に沸いていた社内では、「現状でも問題ない」「管理担当者を増やせばいい」という声も多かった。加古氏は「確かにフル生産が続くならシステムは要らないが、将来的には経営インフラとして必要だ」と説いて回り、大型投資の社内決裁を通した。

 新システムの開発には、新工場の業務プロセスが未確定な状況で進めねばならない難しさがあった。そこで加古氏は、ウルシステムズが推進する「アジャイル」開発手法を採用した。要件定義と開発を何度も繰り返し、システムを作り込んでいく手法だ。過去に長年勤務した製鉄会社で、「早期に要件定義をしすぎて、数年後に動かないシステムができてしまうのを見てきた」(加古氏)教訓を生かした。今後は、インゴット以外の触媒などの事業分野でもシステム化を推進していく考えだ。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・IT関連の業務を定量的に表現できない時もありますので、できるだけ分かりやすく伝えるように努力をしています

・現状や向かうべき方向について、経営トップと認識のズレがないか意識して議論するように心掛けています

◆ITベンダーに対し強く要望したいこと、IT業界への不満など
・ITシステムは、設計する人やユーザー会社の実力によって、出来・不出来が決まると考えています。ユーザー側の実力を見極めて適切なアドバイスをお願いしたいと思います

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日本経済新聞
・日経ビジネス
・週刊東洋経済
・ノジュール(JTBパブリッシングの「団塊の世代」向け生活情報誌)

◆最近読んだお薦めの本
・『世界を制した「日本的技術発想」』(志村幸雄著、講談社)
・『千年、働いてきました~老舗企業大国ニッポン』(野村進著、角川グループパブリッシング)
・『のぼうの城』(和田竜著、小学館)
・『2次会は出るな!』(中村繁夫著、フォレスト出版)

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・定期的に参加しているものはありません。IT企業が主催しているセミナーに参加するようにしています。情報収集のために東京ビッグサイトで開催される各種展示会には、できるだけ出かけるようにしています

◆ストレス解消法
・日本の歴史が好きですので、史跡巡りをして気分転換をしています

・最近は、日帰り温泉も気に入っています

■変更履歴
見出し及び本文中に,加古幸博氏の役職が取締役常務執行役員業務本部長と記載されていましたが,正しくは常務執行役員業務本部長です。お詫びして訂正します。文中の表記は修正済みです。 [2008/12/15 18:00]