エノテック・コンサルティングCEO
米AZCAマネージング・ディレクタ
海部 美知 エノテック・コンサルティングCEO
米AZCAマネージング・ディレクタ
海部 美知

 米国では,金融崩壊の嵐が吹き荒れ,止む気配がない。シリコン・バレーでも米ヤフーや米イーベイの人員整理が聞かれる一方,米アップルと米グーグルは好調な決算を発表したり,Android搭載機「G1」の発売時には長蛇の列が出来たりと,明暗入り乱れている。

 シリコン・バレーの「景気」は今いったいどうなのか,財政面,営業面,人材・心理面という三つの側面から考えてみよう。

財政:耐性が高く影響は小さい

 一般にシリコン・バレーの企業は借金でなく直接投資で回していることが多い。このため,短期的な運転資金が調達できずに破綻する金融機関や,貸しはがしで破産に追い込まれる日本の中小企業のような例は少ない。

 今はかつてと違い,ITバブル崩壊とSOX法のダブル・パンチでベンチャ上場は難しくなっている。そこで投資家は最初から上場を期待せず,大手企業への売却がエグジット(投資回収)の主流となっている。また,前回のバブル崩壊の教訓もあり,ベンチャ自体も急に雇用や設備投資を増やしたり広告を打ったりせずに,堅実な運営をしている。このように,投資家とベンチャの両方が不況への耐性を高めている。

 とはいえ,大手企業の企業買収は今後減少すると見込まれ,投資家心理の冷え込みからベンチャ資金は細りつつある,というのも現実である。

営業:落ち込みはなくプラス面も

 通信サービスについては,新規加入者の伸びが鈍ったり,新規投資がスローダウンしたりという可能性はある。しかし,皆が通話を控えるという状況は今のところ見られず,大きな落ち込みに結び付く気配は感じられない。

 一方,購買意欲の減退から消費者向け製品の売り上げが減る懸念がある。企業の広告予算は不況時に真っ先に削られやすいため,広告ベースのウェブ・サービスは厳しくなるとも言われる。

 いずれも影響は徐々に出るだろうが,IT系の製品・サービスは家計への負担が比較的軽いため,遠くに旅行に出かける代わりに,自宅でネット娯楽で安くあげるなど,節約という観点から通信サービスが伸びるということもあり得る。必ずしも悲観一方ではない。

人材・心理:不況をチャンスと見る

 さて当のベンチャ起業家たちはというと,意外なほどへこたれていない。

 確かに,これから資金を集めようとすれば大変だろうが,百戦錬磨の起業家なら,ここしばらくの好景気のうちに資金を集め終わっている。むしろ,この先「二番煎じvの競争相手は増えず,過当競争が起こりづらくなったり,優秀な人材を集めやすくなったりというプラスの面もある。

 不況の時こそ,大きな成功の種を仕込む時期であり「今がチャンス」との声もあちこちで聞こえる。これまで何度も好不況の大波を越えてきたシリコン・バレーには,災いを転じて福となそうとする気分が満ちているのである。

海部美知(かいふ・みち)
エノテック・コンサルティングCEO,
米AZCAマネージング・ディレクタ
 NTTと米国の携帯電話ベンチャーを経て,1998年から通信・IT分野の経営コンサルティングを行っている。シリコン・バレー在住。
 10月13日,米国の携帯電話サービス25周年を記念し,サービス発祥の地シカゴで開かれたディナー・パーティに出席した。参加費はかなり高額だったが,主要事業者やメーカーのトップが軒並み参加した。ウォール街やワシントンで続く金融対策の厳しい戦いと,このパーティの華やかさはあまりに対照的だった。