2008年9月,遊休化した周波数帯の2次取引サービスを米スペクトラム・ブリッジが開始した。免許は付与されているが,事実上利用されないで放置されている周波数帯について,オンライン上でリアルタイムに取引できるようにしたものである。周波数帯有効活用の観点からもその成否に注目が集まっている。

(日経コミュニケーション編集部)

 米連邦通信委員会(FCC)は,民間セクターに対する周波数帯の免許付与権限を持つ。FCC主催のオークションでは,3月に終了した米ベライゾン・ワイヤレスと米グーグルの700MHz帯の落札合戦が記憶に新しい。常識的には,FCCから免許を付与された当事者は,それらを商用サービスなどに有効活用していると考えるのが自然だ。

免許付与済み周波数帯,9割が遊休化

 しかしながら,業界団体のテクノロジーCEOカウンシルや米国政府説明責任局(GAO)は,免許付与済み周波数帯の約90%が遊休状態にあると報告。この非効率な利用状況の原因について,スペクトラム・ブリッジは「そもそもオークションの開催自体が少ないため,携帯電話事業者などが買い逃しリスクを恐れて買い占めているから」と説明する。利用計画の有無にかかわらず,将来高値で売れるとの思惑もあり,携帯電話事業者などがやみくもに周波数帯を購入してきたという。

 この結果,それらのほとんどが未使用のまま放置されているのが現状のようだ。さらに,現行のFCCの免許付与制度では,当事者のニーズに応じた自由分割購入が認められていない。こうした柔軟性に欠けた規則も,遊休周波数帯を生み出す原因になっていると同社は指摘する。

 FCCは2000年に入り,周波数帯の2次市場の枠組み作りに取りかかった。2004年までに段階的に周波数政策を自由化し,2次取引を活性化できる環境を整えた。具体的には,再販時の免許譲渡などにかかわる法定書類手続きを大幅に簡素化し,これまで禁止されていた周波数帯の分割再販を解禁。周波数帯を自由に切り分けて販売することを認可した。

周波数帯再販にビジネス・チャンス

 FCCの規制緩和に,新たなビジネス・チャンスを見いだしたのがスペクトラム・ブリッジである。

 同社は2007年3月,200万ドル(約2億円)の出資金で米国フロリダに設立された。出資者にはベンチャー・キャピタルやFCC傘下機関の電気通信開発基金(TDF)などが参画している。経営陣は通信業界の経験が長いメッシュ・ネットワークス(2004年にモトローラが買収)の元社長を含む4人で構成されている。

 同社は9月8日,未使用の免許付与済み周波数帯の2次取引マーケット・プレイス「SpecEx」(写真1)をオンライン上に開設。11月1日から全機能をリリースする予定である。同社の試み以前にも,周波数帯の2次取引市場は存在していた。ただし,それらのほとんどは非公式かつ売買当事者同士の個別交渉取引が主体で,閉鎖的だった。スペクトラム・ブリッジはこうした市場に風穴を開けた。所定の審査さえクリアすれば,興味ある売り手と買い手が自由に参加できるオープンな取引環境を実現したのだ。

写真1●米スペクトラム・ブリッジが開設した周波数帯の2次取引オンライン市場「SpecEx」のデモ画面
写真1●米スペクトラム・ブリッジが開設した周波数帯の2次取引オンライン市場「SpecEx」のデモ画面

 同社によれば,現在モバイル・ブロードバンド用途で使える周波数帯はほぼ完売状態だという。同社は,サービス開始時で2億5千万ドル(約250億円)相当の売り出し可能な周波数帯を確保したと発表している。また,10月6日には米MCLM(Maritime Communications/Land Mobile)が所有するVHF帯の2次取引について,独占的提携を締結したと発表した。