タイミングと信念。2008年12月2日に東京工業大学で行われた特別講演会「エンジニアの未来を語ろう」で,米NVIDIAの共同創設者,社長兼CEO(最高経営責任者)であるジェン・スン・フアン(Jen-Hsun Huang)氏は,会場に集まった学生たちに向けて幾度となくこの2つの言葉を口にした。

 NVIDIAは,パソコン用のグラフィック・アクセラレータ「GeForce」で一般に知られている。ほかにもデザインやビジュアリゼーション用の「Quadro」,ハイパフォーマンス・コンピューティング用の「Tesla」といったGPU(Graphics Processing Unit)を提供している。エンジニア出身のフアン氏は1993年4月にNVIDIAを共同創設して現在に至る。

 フアン氏の“ルーツ”はビデオ・ゲームだという。ATARIをはじめ,ファミコンなどに夢中になったビデオ・ゲームの第1世代だと説明する。実は,今回の講演のタイトルは「From Virtua Fighter to TSUBAME:A Supercomputing Revolution」であり,同氏のゲームへの傾倒ぶりがうかがえる(注:TSUBAMEは東工大のスーパーコンピュータの名称)。

信念に基づく行動による偶然は“必然”

 タイミングについてフアン氏は,「前の世代にできなかったことができるようになったときに,前の世代が知らなかったことを知っておくこと」と語る。同氏は20歳のとき,あるツールの最初のユーザーだったため,20歳にして開発プロジェクトのリーダーになった。同氏が大学を卒業した1983年は,ちょうどCADが一般化しようとしていた時期である。

 こうしたときにタイミングよく「何が起こっているのかを理解することが重要」と語る。「例えば,Javaを今からいくら勉強しても,もっとできる人は世界中にたくさんいる」。

 フアン氏はさらに講演に集まった学生たちに向けて,信念を持つことの重要性を訴えた。「信念と善意に基づいて行動すれば,思ったような結果が得られなくても歓迎すべきだ。その結果をopen mindで受け入れれば,想像以上の世界を切り拓くことができる」。

 こうした信念やアイデアは「経験に逆らわないこと,好きなことをすることから生まれる」とフアン氏は続ける。例えば,ビデオ・ゲームに夢中だった学生のころにCGの重要性をいくら親に説明しても,全く理解してもらえなかったという。

 もちろんこれらは成功するための必要条件ではあっても,十分条件ではない。フアン氏は,自分の信念に従って行動した結果,偶然が起こったと語る。会場からの質問に対しても「(成功するかどうかは)頭よりも運」と答えていた。

 ただし,NVIDIAが現在のように社会的に認められ,貢献できるようになったことについては,信念に基づく行動によって起こされた「2番目の偶然」,すなわち必然であると語る。最後に「昔,GPUは存在しなかった。今は無くても,将来こういったことが起こると説明できることが重要」と語りかけて,フアン氏は講演を締めくくった。

 実業家であるフアン氏の視点は,エンジニアを目指す学生には必ずしも合致しなかったかもしれない。それでも今回の講演を聴いたエンジニアの卵たちの中から,何か新しいことを起こす人たちが出てくることを期待したい。