「情報システム」サイトに掲載したニュース記事の年間アクセスランキングから見えてくるのは,「訴訟や障害などのトラブル続出」「それを避けるための知恵の結集」といったIT業界の動向である。ランキング上位に入った記事をたどりながら,具体的に見ていこう。
スルガ銀行 vs. 日本IBM
新経営システムの開発中止を巡り,スルガ銀行が日本IBMを相手に111億700万円の損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に提起したのが,今年3月。この動向を追跡した記事に注目が集まり,2008年のランキング上位を占めた。
3月6日に掲載した「【速報】スルガ銀が日本IBMを提訴、システム開発の債務不履行による損害など111億円超を賠償請求」(3位)に始まり,「スルガ銀行と日本IBMのシステム開発失敗を巡る裁判がスタート」(6位),「スルガ銀と日本IBMの「動かないコンピュータ」裁判の訴状内容が判明、要件定義を3回繰り返す」(2位)と経過を詳しく報じた。8月には日本IBMがスルガ銀行に対して反訴するという事態に展開している。
訴訟関連のニュースとしては,もう一つ,みずほ証券がジェイコム株の誤発注で2005年12月に出した損失を巡るニュースもランクインした。「『富士通の開発ミスの全責任は東証にある』とみずほ証券、株誤発注裁判」(4位)では,みずほ証券の主張と裁判の動向を詳しく報じている。
無くならないシステム障害
訴訟に至らないまでも,2008年はシステム障害が数多く起きた。特に大規模な障害を報じたニュースが多くランクインした。特に注目されたのが,11月4日に発生したJCBのシステム障害。システム移行に伴うトラブルの概要を発生から復旧までを,ほぼリアルタイムで報じている。
・11月4日「JCBが会員向けサイトなど一部停止、システム移行で不具合も」(17位)
・11月5日「JCB、基幹系にも障害が発生、キャッシングが不能に」(5位)
・11月6日「JCB、キャッシング障害から復旧、原因は調査中」(29位)
このほか「【速報】東証の新派生売買システムで障害、先物取引の一部が売買停止」(14位),「またも中国からのSQLインジェクション、楽器通販サイトで約10万件の個人情報が流出」(18位)といったニュースがランクインした。
失敗しない開発手法の模索が続く
システム障害が続く一方で,失敗しない開発手法などの模索が続いている。ITベンダーでは,例えば「NTTデータが新開発手法、“見た目重視”で工期3割削減」(25位)といった取り組みが続いている。官公庁でも「経産省が中小企業向けモデル契約書を策定、SIerの説明責任を重視」(27位)といった動きがある。
また「『テストをすべきなのは知っているが,現実にはできない』という現場の状況をいかに打破するか,気鋭のソフト開発者とテスト技術者がパネル討論」(10位)という現場の声を報じたニュースにも関心が集まった。
大規模開発案件に注目
このような業界をあげた開発手法の模索が続く背景には,システム開発案件がますます大規模化,複雑化していることがある。2008年は,大規模システムを巡る話題も多かった。
例えば,2007年10月に民営化したゆうちょ銀行の情報システムには,IT業界以外からも注目が集まった。ITproでも,「ゆうちょ銀が2009年1月にも全銀システムと接続、民間金融機関との相互送金が可能に」(15位),「『ゆうちょ銀行の全銀システム接続は2008年5月』、日本郵政の西川社長が見通し」(26位)といったニュースを報じ,アクセスを集めた。
クラウド,台頭!
信頼性の高い情報システムを速く安く開発するための提案が,GoogleやAmazon.com,Salesforce.comなどからなされた。彼らが打ち出した「クラウド・コンピューティング」は,2008年に台頭してきたトレンドの一つである。ITproでは関連ニュースを数多く報じており,いくつかがランクインしている。
多かったのは,海外ベンダーの動向を伝える記事。「グーグルが『ストリートビュー』日本版を開始、特定地点の360度パノラマ写真を公開」(7位),「ブログ同士で“SNS”が作れる,Googleが「Social Graph API」サービス公開」(11位),「『あなたのビジネスをクラウドへ』,SalesforceとGoogleがMS/IBMに宣戦布告」(19位),「【続報】「グーグルの独占を阻止する」、米MSのバルマーCEOがヤフー買収提案で会見」(23位),「Google,GmailとOutlookを同期化する「Google Email Uploader」を公開」(24位)といったものだ。国内ベンダーも「KDDIがSaaSの第1弾を提供、Outlookを月額980円で」(12位),「NTTデータがNGN対応SaaSプラットフォームを披露」(21位)というように,この分野への攻勢を強めている。