トラフィック増加に対する一番の対策は設備の増強である。ただ実際には,これが単純にはいかない。ISPの間では今,設備の有無で急速に2極化が進行し,設備の大半をアウトソースしているISPが多いからだ。最新の高速化技術を取り入れたコスト抑制は難しい。

 ISPはこれまで,アクセス回線事業者の全国各地の収容局に自らの設備を置き,通信事業者から専用線などを借りてバックボーンを構築するのが一般的だった。各社は設備の詳細を公表していないが,最近はアウトソースによって様々な構築形態を採ることができる(図1)。例えばアクセス回線事業者の収容局に設置する1次収容ルーターとバックボーンまでの中継回線をまとめて借りられる(図1のパターン1)。これに加えてインターネット接続までも借りる,いわゆる「OEM」もある(同パターン2)。アクセス回線も含めて1次収容ルーターや中継回線までを丸ごと借りられるケースもあるという(同パターン3)。

図1●大手通信事業者に設備をアウトソースするISPが増加<br>アウトソースの仕方は主に3パターンあり,1社のISPの中でも場面によってアウトソースの仕方を変えているケースが多い。
図1●大手通信事業者に設備をアウトソースするISPが増加
アウトソースの仕方は主に3パターンあり,1社のISPの中でも場面によってアウトソースの仕方を変えているケースが多い。
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 フリービットは中堅・中小のISP向けに同社のネットワークを1ユーザー当たりの料金体系で切り売りするビジネスを展開しており,約200社のISPを傘下に抱える。その同社もバックボーンの運用をNTTコミュニケーションズに委託しているという。「認証やトラフィック制御の仕組みは自社で導入しているが,ネットワーク設備は基本的に持たない。相互接続点(POI)の設備も借りている」(石田社長)。

 ほかにも設備をアウトソースするISPは多い。「自社設備はコア部分(センター)だけ。あとは(1次収容ルーターを含め)NTTコミュニケーションズのサービスを利用している」(朝日ネットの土方次郎・取締役副社長),「インターネット接続の設備を含め,インターネットイニシアティブに委託している」(エキサイト コンシューマーサービス本部の宗俊介副本部長 兼 BB.exciteサービス部長)といった具合だ。このほかにも,ニフティをはじめ名立たるISPの多くが,設備の設置・運用を少なからず外部委託している。

 このように設備をアウトソースしている場合は技術の進化によるコスト低減効果を享受しにくい。設備を所有するISPはダーク・ファイバを利用して自らWDM装置を設置することで,中継回線のビット単価を低減している。コスト抑制を目的に設備をアウトソースしたISPは,逆に技術面からのコスト圧縮の自由度が低くなっている。

帯域制御は効果が限られる

 トラフィック対策には設備の増強だけでなく,通信量の抑制で対処する方法もある。主な手法には,(1)アプリケーション規制,(2)総量規制,(3)キャッシュ・サーバーの導入があるが,いずれも決め手に欠ける(図2)。

図2●主なトラフィック抑制策とその課題
図2●主なトラフィック抑制策とその課題
アプリケーション規制や総量規制,キャッシュの導入があるが,いずれも課題を残す。