トラフィックの増加に対応するには設備の増強が欠かせない。だが,最近は設備を所有せずにアウトソースしているISPが多く,増強に限界がある。トラフィックを抑制する方法もあるが,これといった決定打は見つかっていない。

 そこに追い打ちをかけるようにIPv6対応の期限が迫っている。最終手段は値上げだが,ここでもいくつかの課題を残す。こうした状況で契約数の伸びが止まれば,ISPの事業は立ち行かなくなる。新事業の開拓は待ったなしだ。

宙に浮いた“ただ乗り”論

 ISPの目下の課題はトラフィック対策である。日本のインターネットの総トラフィックは伸び続けており,2008年11月にも1T(テラ)ビット/秒に迫る勢いだ(図1)。過去3年間で約2倍に増えた。ブロードバンドのユーザー数が増えていることに加え,1人当たりの消費帯域も伸びている。KDDIやNECビッグローブでは,「1ユーザー当たりの下りトラフィックが過去2年で約2倍」(コンシューマ事業企画本部コンシューマ事業企画2部の前田大輔課長),「ここ3年間は毎年1.7倍の伸び率」(岸川統括マネージャー)など,これを上回るぺースのトラフィック増加に頭を痛める。

図1●日本のインターネットの総トラフィック
図1●日本のインターネットの総トラフィック
総務省公表の推定値。依然として増え続けており,2008年11月には1Tビット/秒を超えそうな勢いである。

 現状はこうしたトラフィック増加に対して多くのISPが「あと2~3年は問題ない」とする。理由は主に二つ。一つは帯域制御の効果が出てきたこと,もう一つはトラフィックの伸び方をある程度把握でき,ISPが対応しやすくなったことである。

表1●主なISPにおける帯域制御の実施状況
アプリケーションの種類やトラフィック総量で通信を制御するISPが増えている。
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表1●主なISPにおける帯域制御の実施状況<br>アプリケーションの種類やトラフィック総量で通信を制御するISPが増えている。

 トラフィックが増えている主な要因は,P2Pアプリケーションと動画サービスにある。P2Pや動画は2005~2006年にインターネットの“ただ乗り”として問題視された。ただ,今ではすっかり沈静化した。P2Pに関しては一部のISPがアプリケーション規制を導入しており,この効果が大きく出ている(表1)。

 もう一方の動画についても,「YouTubeやニコニコ動画,GyaOによる影響は確かにあるが,とてつもなく増えて収拾がつかない状況ではない」(ソネットエンタテインメントの菊池正郎・取締役執行役員)。そもそも「動画は基本的に人間がリアルタイムで視聴するもの。人間の視聴時間は限られるので恐れるほどではない。特にYouTubeは,日本ほど高速化が進んでいない米国のブロードバンドを前提にしていることもあり,トラフィックはそれほど大きくない」(フリービットの石田社長)という。

 ISPが適切な設備投資計画を立てられるようになったことも大きい。ある大手ISPの担当者は「2005年にGyaOが登場したときは,FTTH市場の立ち上がりと重なり,トラフィックが急激に伸びて設備の対応が追いつかない状況だった」と振り返る。現在はトラフィックの伸び方がある程度予測できるうえ,売り上げが増えているため,適切に設備を増強できる。

 だが,動画サービスなどの動向を見ると,トラフィックは増える一方だ。動画は今後,高画質や長時間のコンテンツが増えていく。「YouTubeに高画質や長時間のバージョンが登場するとバックボーンの容量がきつくなる」(NECビッグローブの岸川統括マネージャー)。オンライン・ゲームの利用も進んでおり,画像やFlashの多用で一般のコンテンツもリッチ化している。ユーザー当たりの平均トラフィックが徐々に増え,ISPのバックボーンをじわじわ圧迫していく。