日経情報ストラテジー
編集長
西頭 恒明
日経情報ストラテジー 編集長  西頭 恒明

 「100年に1度」と形容される世界経済の危機は2009年、実体経済により深刻な影響を及ぼすだろう。既にあらゆる業種で非正規社員を中心に人員削減の動きが加速しているが、企業にはこれまで以上にコスト削減などの抜本的な現場改革が迫られる。だが、危機は変革の好機ともいえる。危機に立ちすくんでしまうのか、これまで手をつけてこなかった課題を解決したり、新しい価値を生み出したりするエネルギーへと転換するのかによって、今後の競争力に大きな差が出るはずだ。

 「日経情報ストラテジー」は2009年2月号(2008年12月29日発売)の特集2で「ここまでやる! コスト削減6カ条」を取り上げた。事例を紹介した企業の1つ、アサヒビールは「無駄なコストは1円たりとも外に出さない」という経営トップの強い意志の下で間接材の購買改革に乗り出した。

 原料や資材などの直接材についてはどの企業もコスト削減が進んでいるが、ボールペンなど単価が100円にも満たないような間接材にも踏み込んで購買コストを改善しようというのはまだ珍しい。それでもアサヒビールが手をつけたのは、一つひとつの単価は安くても、グループ全体で積み上げると数百億円規模に達するからだ。同社はオフィス用品通販大手、アスクルが提供する間接材の一括電子購買サービス「ソロエル」にグループ31社約1万5000人の間接材購買を集約してコスト削減を図る。ソロエル活用による間接材の購買改革については、オムロンも2009年1月から実行する予定で、今後は業種を超えてこうした動きが活発になるとみられる。

即効性が期待できるIT投資に集中する動き

 2008年末、日本経済に大きなインパクトを与えた「トヨタショック」。トヨタ自動車は2008年11月、2009年3月期の連結営業利益を1兆6000億円から6000億円へと下方修正したが、経営環境はその後さらに悪化し、1500億円の営業赤字へと転落する見通しであることを12月下旬に発表した。このように経営を取り巻く状況が短期間で激変するなか、的確な経営判断を下すうえでCIO(最高情報責任者)が担うべき役割はますます重くなる。

 企業にとって資金の流れを血液に例えるならば、情報の流れは神経である。グローバル化の進展で企業の業容が拡大するなか、CIOは“神経”を一層研ぎ澄ませ、国内外を取り巻く環境の変化をいち早くつかんで対処しなければならない。

 日経情報ストラテジーが2008年10~11月にかけて有力企業のCIOおよびCIO相当職に対して実施した調査によると、「今後投資を行う予定の重点分野」の上位は「財務・会計」(21.1%)、「販売管理」(20.9%)、「セキュリティー・個人情報保護」(20.6%)、「営業支援」「内部統制」(ともに20.3%)となった。前年の調査と同様に「守り」を強化するIT(情報技術)投資が目立つなか、営業支援が上位につけた点が今回の特徴だ(詳細は2009年3月号の本誌で掲載予定)。

 2009年は業績の悪化などから、多くの企業でIT投資額が削減されるとみられる。だが、今回の調査で兆候がみられるように、「営業支援」「生産管理」「サプライチェーン・物流管理」「調達・購買管理」「顧客管理」など、コスト削減や売り上げ増に直結する分野へのIT投資の重要性はむしろ高まりそうだ。

日経情報ストラテジー
日経情報ストラテジー
経営革新にITを活かす成功事例満載の実践マネジメント誌。毎月29日発行

 「IT投資の効果が短期間で経営指標の改善となって表れ、年度内にもROI(投下資本利益率)の向上につながる分野には積極的に投資していく。また、中期的な戦略課題に必要な投資にも手を打たなければならない。IT投資も選択と集中がますます重要になる」。ある大手電機メーカーのCIOはこう指摘する。2000年のITバブル崩壊時のように一律にIT投資を削減するというのではなく、再び成長軌道に乗せるのに必要な分野に重点的に投資していく判断が経営層に求められる。

 日経情報ストラテジーは厳しい経済環境を乗り切るために、新しい経営手法や業務革新・現場改革の具体的な事例を今年もタイムリーに提供していくつもりだ。変革の一助になれば幸いである。