日経コミュニケーション
編集長
松本敏明
日経コミュニケーション編集長 松本敏明

 一般ユーザーが利用する通信サービスが,企業ネットワークの中で大きな役割を担うことは,もう当たり前になった。

 家庭向けブロードバンド回線として使われる光ファイバは,企業の主力アクセス回線としても高い割合で導入されている。2008年に始まったNTT東西のNGN(次世代ネットワーク)は,一般ユーザー向けサービスと企業向けサービスの両面を備えている。移動通信でも3G(第3世代携帯電話)によるデータ通信は,移動中のモバイル利用や社外からのリモート・アクセスだけでなく,企業の拠点間を結ぶ固定アクセス回線の代わりに採用されるようになった。社員一人ひとりが持ち歩く携帯電話端末を業務用途に活用するアプリケーションや,内線電話網と連携させるシステムを導入する事例はもう珍しくなくない。

 2009年もこれら“コモディティ化した”通信サービスの進化が,企業ネットワークを変える原動力となる。企業ユーザーはこれら通信サービスを自社のネットワークにどう取り込んで,どう生かしていくかを問われるだろう。

NGNの「帯域確保型」サービスに注目

 光ファイバは,既に企業が基幹ネットワークを構築するうえで欠かせないインフラとなった。日経コミュニケーションが2008年夏に実施した調査では,既に7割弱の企業が光ファイバを基幹網のアクセス回線として導入していることが明らかになった。並行してビデオ会議やシン・クライアントといったアプリケーションを利用する企業が増えている。ネットワークの広帯域化に伴い,アプリケーションもリッチになる傾向が浮かび上がった。

 そして光ファイバにつながるNTT東西のNGNが,2009年にいよいよ本格展開する。NTTグループが総力を挙げて取り組んできたNGNの真価が問われる年になるだろう。その鍵となるのはNGNのエリア展開とサービス拡大の二つの側面だ。

 まずエリア展開について。2008年3月の開始当初のNGNはエリアが限られていたため,全国に拠点を持つ企業には使いづらいサービスだった。ようやく,2008年夏からエリア拡大が始まり,NTT東日本はエリア展開スケジュールを前倒しする計画を明らかにしている。気になるのは西日本の整備が遅れているところだが,NGN非対応エリアからの接続でもNGNのVPN(仮想閉域網)に収容できるサービスを追加するなど,企業の導入を促す環境の整備を進めている。

 サービス面では,2009年に「帯域確保型」のVPNサービスが始まる。サービス品質をアプリケーションごとに設定できるNGNの特性を生かせるとして,開始当初から期待を集めていたサービスである。これからのNGNの普及・拡大を左右するだけに,どの程度の柔軟性を備え導入しやすい料金としてサービスを仕立ててくるのかに注目が集まる。

携帯電話端末のアプリが高度化する契機に

 携帯電話では,端末のオープン化の動きが加速する年になるだろう。象徴的な動きが,NTTドコモとKDDIが米グーグルの「Android」端末を出荷すること。さらにオープン・プラットフォームのスマートフォンが全携帯電話事業者から出そろうことで,事業者を問わず利用できるアプリケーションの開発が可能になる。

 オープン化した端末は従来のものに比べて,端末の機能を活用したアプリケーションを開発しやすい。企業ユーザーが業務に特化したアプリケーションを作りこむことも可能だ。携帯電話事業者は従来型の端末も販売するため,オープン端末の割合はまだそれほど高くはないが,従来の枠を超えた携帯電話アプリケーションが拡大する一つの契機となるだろう。

 携帯電話はカメラやGPS(全地球測位システム),地磁気センサー,加速度センサーなどを次々に取り込んで内蔵している。いわば“センサーの塊”となり,ユーザーの周辺にある情報を収集し,ネットワーク上のサーバーに送る。サーバー側ではネットワークにある様々なデータを収集・蓄積し,端末から送られた情報とマッチした最新情報を送り返すエージェント機能を充実させている。端末のオープン化とネットワーク側機能の充実とが結びつくことで,端末とサーバーが連携した新型サービスが次々に登場する。

 モバイル分野ではもう一つ,2009年に始まるモバイル・ブロードバンドにも注目だ。UQコミュニケーションズがモバイルWiMAXを,ウィルコムが次世代PHS(Willcom Core)をそれぞれスタートさせる。端末ではUMPC(ultra mobile PC)やMID(mobile internet device)といったノート・パソコンとスマートフォンの中間に位置する機器が登場してきた。これら端末と連携しながら,既存の3Gデータ通信よりも安価で高速なサービスを実現できれば,新しい市場を確立できるかもしれない。

サービスと技術の本質を評価しよう

 これらのサービスのほとんどは,ベースになるインフラは一般向けも企業向けも共通で,サービス/アプリケーション部分を用途に応じて変えている。ただしその半面,景気の影響を受けやすい。2008年に日本国内で携帯電話端末の販売台数が急落し,光ファイバの純増数の勢いが鈍った一因に,世界的な景況感の悪化があったことは否めない。規模の成長がなくなると,通信事業者のインフラ投資や端末/サービス開発にも影を落とす可能性さえある。

日経コミュニケーション
国内外の通信・ネットワークの最前線を伝える,企業ネットワークの総合情報誌。毎月1日・15日発行

 厳しい経済環境の中,企業も通信ネットワークにかかわる投資を抑える方向に傾きやすい。しかし,通信にかかわるサービス/技術が,着実に進化していることを見逃してはいけない。目先の数字にとらわれることなく,進化の価値を評価したうえで,企業にとってプラスとなる新しいサービス/技術の導入を検討する必要がある。