問題解決のような何らかの意思決定をする思考過程では通常,「発散(拡散)」と「収束(集中)」という二つのプロセスを繰り返す。

 発散のプロセスを簡単に言うと,改善すべき現状の問題,その原因,解決策などについて,自由な発想で幅広くアイデアを出すというものである。その際,アイデアを出すのに論理性に縛られる必要はない。思いつきでポンポン言うことが許されるし,実現不可能なアイデアも歓迎される。別のアイデアを思いつくのに役立つからである。

 一方,収束のプロセスは,出てきたアイデアを組み合わせ,すり合わせてうまく機能するようにきっちりハメ込むという段階である。きっちりハメ込むことを要求されるため,厳密な論理性が要求される。

 前述したフローチャートとIDEF0はどちらも主に収束のプロセスで使う。ITエンジニアは収束のプロセスが得意で熱心に行うが,発散のプロセスは不十分なことが多い。そこで発散のプロセスを強化するチャート,つまり「発想を引き出すチャート」を三つ紹介する。いずれも,改善テーマの選定から対策の立案まで様々な場面で効果を発揮するチャートである。

(3)マインドマップ

 「マインドマップ」は最近,雑誌などで取り上げられることが多くなったので,ご存じの方が多いだろう。実際に,発想を支援するチャートとして優れものである。これを一つ目の発想支援チャートとして取り上げる。

 マインドマップの書き方は極めて簡単だ。大きな紙の真ん中にテーマを書き,あとはそこから連想した言葉をどんどん周辺に放射状に広げて書き出していくだけだ(図9)。論理性は不要で,ひたすら連想や思いつきに徹する。そうすると,その中から「この問題はここがカギになる」という重要なポイントが見つかる。

図9●マインドマップ<br>中心に改善テーマや問題,対策などのメインテーマを書き,放射状に広げるようにキーワードを書き連ねていく。メインテーマへの意識をキープしつつ発想を広げやすい
図9●マインドマップ
中心に改善テーマや問題,対策などのメインテーマを書き,放射状に広げるようにキーワードを書き連ねていく。メインテーマへの意識をキープしつつ発想を広げやすい
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 連想や思いつきだけで構わないと言っても,実際に放射状にキーワードを広げていくと,中心のテーマに近いところは大項目,そこから枝分かれした先は中項目・小項目,という具合に何らかの論理性に基づいて構造化したくなる。最終的に構造化してもよいが,最初から「まずは大分類を挙げていこう」などと考えると手が止まりがちである。慣れないうちは,ひたすら連想に徹して書き出すことを優先する方がよい。

(4)因果関係図(連関図)

 二つ目は「因果関係図」である。「連関図」とも呼ばれ,新QC七つ道具の一つになっている。

 これは文字通り「因果関係(原因と結果の関係)」を表す図表である。一般に,一つの問題が複数の原因によることも,逆に一つの原因が複数の問題(原因の結果)をもたらすこともある。このため,因果関係図は型にはまらないネットワーク状のチャートになる(図10)。

図10●因果関係図(連関図)
図10●因果関係図(連関図)
問題(原因)に対して原因(原因の原因)から矢印を引いて構造化していく。改善活動では,付箋紙で書き出した多数の問題を因果関係によって整理する際によく用いる

 フローチャートやIDEF0が作業の連鎖を表すのに対して,因果関係図は因果の連鎖を表し,問題の根本原因を探るのに使う。「テストで発見できず導入後に見つかるバグが増えてきた(未発見バグ増加)」という問題があったとしよう。この問題に対する原因を「テストのオペレーション・ミス」「オペレータの負担が重い」「設計ミス」といった具合に思いつくまま挙げていき,因果関係がある原因同士を見つける。例えば「オペレータの負担が重い」は「テストのオペレーション・ミス」の原因である。そこで,前者から後者に対して矢印を引く。こうして因果関係で原因を構造化することによって,どれが根本原因になっているのかが考えやすくなる。

 因果関係図を書く際には,当然ながら因果関係というロジックが必要だが,厳密にロジックを追求するよりも,とりあえず書き出すことを優先した方がよい。書いてみて間違っていたら,他のメンバーが指摘してくれるだろう。要は根本原因にたどりつければよいのである。アイデア出しのツールであることを意識して使ってほしい。