「QC七つ道具」「新QC七つ道具」と言えば,製造業が培ってきた改善活動の定番ツール。それにならって,ITの現場での改善活動で威力を発揮する「図解七つ道具」を紹介する。「業務の流れを表すチャート」「発想を引き出すチャート」「量的インパクトを見積もるチャート」という三つに分けて見ていこう。
「業務の流れを表すチャート」とは,業務を構成する作業の順序を表すものだ。作業の順序を改めて考えることは,改善テーマの選定や問題の明確化などで重要な意味を持つ。
一般には,「Aの次にB」「Bの次にC」という作業の順序は明確に決まっているのに,どうしてその順序なのかと問うと,「何となく」「昔からこうしているから」という答えしか返ってこないケースが非常に多い。しかし深く考えずに作業の順序を固定化すると,それによって生産性を損ねてしまっていることがある。
例えばBとCという作業は手分けして並行して進められるかもしれない。その場合,リードタイムの短縮や負荷分散という効果につなげることができる。あるいは「テスト駆動型開発」のように,作業の順序を入れ替えることで生産性を向上できるケースもある。
このような改善のきっかけをつかむために,まずは「どういう作業の順序で業務を行っているか」という現状把握をしっかり行うことが重要だ。そのために使うのが,作業の順序をはっきり示すチャートである。ここでは,2種類のチャートを取り上げる。
(1)フローチャート
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一つ目は,ご存じの「フローチャート」である。フローチャートの書き方については,説明の必要はないだろう。ただし作業の順序を表すためにフローチャートを書くとき,注意すべきことが二つある。
一つは,正確に表そうとして複雑にしないことだ。順序を明確にして徹底的に考え直せればよいのだから,極端な話,分岐条件さえ省略して,作業(処理)を表す長方形を並べるだけでもよい(図7)。
もう一つは,作業の粒度をいきなり細かく書かないことである。自分たちの作業の順序を把握できればよいのだから,最初は大きな粒度で書き,必要に応じて細分化していくとよい。
なおフローチャートと類似した図解として,日本能率協会が策定した「プロセスチャート」がある。プロセスチャートは,書類(画面)の入力・参照・判断・転記・運搬・保管といった事務工程の業務の記述に向いたチャートであり,改善活動ではこちらを使ってもよい。
(2)IDEF0(コントロール関係図)
業務の流れを表す二つ目のチャートは「IDEF0(アイデフゼロ)」である。これは一つの作業を「機能(処理)」「入力」「出力」「制御」「機構」という五つの要素に分解して表す(図8)。

五つの要素はどのような関係にあるのか。例えば「保守エンジニアがマニュアルを参照し顧客の使用環境に合わせて通信機器のパラメータを決定する」という作業があったとする。この場合,機能は「パラメータ決定」,入力は「顧客の使用環境」,出力は「設定データ」,制御は「マニュアル」,機構は「保守エンジニア」となる。つまり「機能」ごとに,「機構」が「制御」に従って「入力」から「出力」を作り出すわけだ。
IDEF0では,このように一つの作業を五つの要素に分解したうえで,関係する作業同士を結びつけて業務の流れを表す。その際,「ある作業の出力が別の作業の入力になる」という関係に加えて,「ある作業の出力が別の作業の制御になる」という関係も表すことができる。図Bの例で言えば,「マニュアル作成」という機能の出力である「マニュアル」が通信機器の「パラメータ決定」という機能の制御になる。
このように,一つの作業を五つの要素に分解したうえで作業同士の関係を表せば,問題解決のヒントを得やすくなる。例えば,通信機器のパラメータ決定という作業でミスが頻発したとしよう。その場合,保守エンジニアに原因があると考えがちだ。しかしIDEF0で表せば,「保守エンジニア」は通信機器の「パラメータ決定」という機能の構成要素の一つに過ぎないことが明確になる。そのため,「顧客の使用環境(もしくはその調査方法)」や「マニュアル」といった別の構成要素にも目が向くだろう。実際,ある通信会社によると,通信機器のパラメータ設定ミスの多くは,マニュアルの不備が原因であるという。
IDEF0はフローチャートに比べて,作成に手間がかかる。しかしIDEF0の方が,一つひとつの作業を詳しく分析できるので,気付きが多い。
アイデアクラフト 代表