改善には「王道」と言える四つのステップがある。これを一つずつ着実に踏むことが確実な成果につながる。改善活動の進め方について基本から解説する。

 「手戻りを減らしたい」「利用部門の満足度を高めたい」「チーム内のコミュニケーションを円滑にしたい」。ITエンジニアなら誰しも,現場の業務に関してこうした問題意識をいくつも持っているだろう。そのため本来,改善活動のテーマに事欠くことはない。

 しかしチームで改善活動に取り組み始めると,たとえ意欲があったとしても,数カ月ももたずにとん挫するケースが少なくない。それは例えばこんな具合だ。

 マネージャがある日突然,「うちのチームでも改善活動をやるぞ」と言い出す。そのときたまたま話題になっていた品質の問題に対して,あるメンバーがテスト・ツールの導入を提案。チームでそれを使うことにした。ところが使っても成果が上がった気がしない。ほかのメンバーが提案した対策をやってみたが結果は同じ。そして,それ以上どうすればよいのか誰も分からなくなる──。

 実はこれ,改善活動がとん挫する典型的なパターンである。改善活動のコンサルタントである市川享司氏はこう指摘する。「メンバーの誰かが考えついた対策をとにかく実行してみるというやり方では,改善活動は長く続かず,現場の根深い問題は解決できない」。

 では,どうすればよいのか。それは,改善活動の「王道」と言える手順を踏んで,一歩ずつ着実に進めることである。その手順は,(1)改善テーマの選定,(2)問題の明確化と目標設定,(3)根本原因の分析と対策立案,(4)対策の実行,効果測定,定着――という四つのステップで構成される(図1)。以下で四つのステップに沿って,改善活動を進めるうえで注意すべきポイントや,それを乗り越える現場の工夫を紹介していく。

図1●改善活動の流れ<br>手間はかかるが,四つのステップを一つずつ踏んで改善活動を進めるべきである。これによって,成功の確実性を高めることができる
図1●改善活動の流れ
手間はかかるが,四つのステップを一つずつ踏んで改善活動を進めるべきである。これによって,成功の確実性を高めることができる
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ステップ(1) 改善テーマの選定
全員が納得する問題を選ぶ

 ステップ(1)は「改善テーマの選定」である。改善テーマを設定するには,大きく「ボトムアップ型」と「トップダウン型」という二つのアプローチがある。

 一つ目のボトムアップ型は,現場が抱える問題や悩みを洗い出し,その中から改善テーマを選び出す,というものだ。

 問題や悩みの洗い出し方の典型は,チームのメンバー全員で集まってブレーンストーミング注1を行うことである。具体的には,ホワイトボードや付箋紙などに各メンバーが感じている問題や悩みをキーワードとして書き出し,分類しながら広げていく。

 その際に注意すべきことがある。東芝ソリューションの前澤保幸氏(ソリューション第四事業部 放送システムソリューション部 放送システム第一担当)は,「現状への不満や愚痴,個人攻撃を噴出させないようにすべきだ」という。そういう後ろ向きな状態になると「こうなりたい」「こうしたい」という改善テーマにつながらないためだ。そのため前澤氏は「特定の“誰か”ではなく,チームの“仕組み”に目を向けるように話を誘導する」。

 ほかにも前向きな雰囲気を保つには,「近い将来の理想的なチームの姿」と「現状のチームの姿」についてメンバーでキーワードを出し合って明確化し,両者のギャップから今の現場の問題を探る,という手もある。

 チームの人数が多い場合は,アンケート調査も有効だ。金融機関のシステム開発・運用を手掛けるNTTデータの江藤一彰氏(業務開発部)らのチームでは,自由記入のアンケート形式で,約50人のメンバー全員から「今の現場の問題」についての意見を集約した。「マネージャなど一部の人だけで集まって改善テーマを決めるのではなく,メンバー全員にきちんと聞くことが重要。そうしないと,現場の細かな問題や悩みをつかみきれない」(江藤氏)という。