改善活動は,決して「時間外の余計な仕事」ではない。環境変化に対応していくには,仕事を日々改善し続ける必要がある。改善の進め方やムダ取りの方法,改善意欲の高め方を身に付けたい。

 「この半期で残業時間を3分の1にせよ」――。あなたが,会社の上司からこんな指示を受けたらどう思うだろうか。「だったら仕事量を減らしてくれ」「とてもじゃないが半年ではムリ」。こんなふうに憤ったり諦めたりしないだろうか。

 自動車用エアコン製造大手サンデンのシステム子会社,サンデン システム エンジニアリング(SSE)の小林健次氏(製造システム部 宮子センター 係長)らの運用保守チームは昨年4月,実際に冒頭のような指示を受けた。親会社によるコストカットの事業目標が現場に下りてきたのである。そのとき小林氏らは「難しいけれど達成して見せます」と上司に言ってのけた。

 決して強がったわけではない。小林氏らには勝算があった。その勝算とは,綿々と続けてきた現場の改善活動だ。

 小林氏ら9人のチームはそれまでも,改善活動によって難しいテーマに挑み,何度も成果を上げてきた。その成功体験が,小林氏らの自信になっていた。

 小林氏らは新たな改善に向けて「自分たちの工数がどの作業に多くかかっているか」という分析から始めた。データを集めて調べると,導入したばかりの経営管理システムの運用保守業務において,「アクセス権変更」や「データ分析用テーブルの作成」といった作業に時間がかかっていることを突き止めた。そのうえで,「アクセス権変更のバッチ処理プログラムの作成」や「データ分析用テーブルの定期保守化」など十数個の対策を立案。効果の高い対策から矢継ぎ早に実行に移していった。

 半年後の期限が来たとき,残業時間を3分の1に減らすまでには一歩及ばなかった。しかし経営管理システムの運用保守工数はピーク時の34%まで削減させた(図1)。「次の対策を実行すれば目標に届くはず」と小林氏の表情は明るい。

図1●改善活動で運用保守工数をピーク時の34%に削減<br>「残業を3分の1にせよ」という難題を突きつけられたサンデン システム エンジニアリングの小林健次氏らの運用チーム。チーム一丸となって改善活動に取り組み,最も工数がかかっていた経営管理システムの運用保守業務において,工数をピーク時の34%まで削減した
図1●改善活動で運用保守工数をピーク時の34%に削減
「残業を3分の1にせよ」という難題を突きつけられたサンデン システム エンジニアリングの小林健次氏らの運用チーム。チーム一丸となって改善活動に取り組み,最も工数がかかっていた経営管理システムの運用保守業務において,工数をピーク時の34%まで削減した
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改善活動に取り組むITの現場

 SSEのように,小集団での改善活動に取り組むITの現場が増えている。 製造業を中心に,改善活動に取り組む現場のチームが数多く参加しているQCサークル注1の本部。その運営を担当する日本科学技術連盟の安随正巳氏(事業部 QCサークル推進課長)は,「近年は製造業以外の業種にもQCサークル活動が広がっているが,ここ1~2年はITの現場からの参加が目立って増えてきた」と指摘する。

 その1社であるエクサは現在,約3割の現場が改善活動に取り組んでおり,102の改善チームが社内に存在する。各チームの改善テーマは多岐にわたる(表1)。「キャビネットの有効活用」「完了プロジェクトの分析とデータ収集」「チーム組織力の向上」「モチベーション・マネジメントへの挑戦」といった具合だ。いずれも,各現場における問題や悩みが起点となっている。いわば,現場による現場のための取り組みなのである。

表1●エクサの現場チームが過去1年に取り組んだ改善テーマ
エクサでは100を超えるチームが改善活動に取り組み,様々な成果を上げている。生産性や品質の向上といった大きなテーマから,モチベーションの向上やキャビネットの整理といった現場の悩みから生まれたテーマまで,その内容は多岐にわたる
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表1●エクサの現場チームが過去1年に取り組んだ改善テーマ<br>エクサでは100を超えるチームが改善活動に取り組み,様々な成果を上げている。生産性や品質の向上といった大きなテーマから,モチベーションの向上やキャビネットの整理といった現場の悩みから生まれたテーマまで,その内容は多岐にわたる

 恩恵を受けるのは,当事者である現場にとどまらない。「現場の問題や悩みを解決することが,顧客満足につながる」(エクサの改善活動を推進するビジネス推進部門担当の諸野寿雄取締役)。実際に,エクサが現場主導の改善活動を始めたのは2003年からだが,2005年には日本IBMのパートナー30社が共通して行っている顧客満足度調査においてエクサがトップに立った。