全米州CIO協会(NASCIO)の年次総会が9月21~24日にミルウォーキー市(ウィスコンシン州)で開催された。米国では環境・エネルギー問題は一部の進歩的な市民の「道楽」と見られ、国民の総意とは言いがたい状況が長く続いたが、石油の高騰で事態が一変した。エネルギー問題が台所事情に直結したことで、全国的に省エネや自然エネルギーへの関心が高まっている。こうした事情を背景に、グリーン行政は今年のNASCIO年次総会総会の目玉テーマの1つとして注目を集めた。総会のプログラムより「IT資産管理のグリーン化」の模様をリポートする。(石川幸憲=在米ジャーナリスト)

IT資産管理のグリーン化(Managing IT Assets the "Green" Way)

出演者:
 サラ・オブライアン(Sarah O’Brien)氏 グリーン・エレクトロニクス・カウンシル
 デューガン・ペティ(Dugan Petty)氏 オレゴン州CIO

 オレゴン州のCIOに就任して3年目のペリー氏は、ITの専門家ではなく購買畑の出身者だ。州政府で10年間、購買の責任者を務めた経験を生かしながら、省エネかつ環境にやさしいIT機器の導入に力を注いでいる。

 歴代の知事が環境保全に取り組んだオレゴン州は、2020年までに温室効果ガス排出の1割削減を目標にしている。ITの省エネ対策としては、クライメート・セイバーズ・コンピューティング・イニシアチブに加入している。それだけでなく、もう一歩踏み込んだグリーン行政を実現するためにEPEAT(Electronic Products Environmental Assessment Tools:イーピート)と呼ばれる電子製品の環境評価基準作りにも積極的に参加した実績がある。この環境規格に合格したIT機器を導入すれば自動的に環境保護に寄与することになる。

 もう1人のパネラーであるオブライアン氏は、EPEATの規格設定および運用を任されている団体「グリーン・エレクトロニクス・カウンシル(GEC)」を代表してアウトリーチ活動の責任者である。

購買サイドが比較できる基準を

 環境という大きな枠組みの中でITを考えると、アセット管理が重要な鍵になるだろう。購買、稼動(CO2排出とエネルギー消費)そして廃棄というIT機器のライフサイクルを見れば、必ずしも省エネ・グリーン対応の最新型機器を導入することが環境へのプラスになるわけではない。使用済みになったパーソナルコンピューター等の廃棄が問題になるからだ。

 「アメリカでは廃棄になった電子製品の9割近くがゴミとして焼却されるか埋立地に埋められている」(オブライアン氏)のが現状だ。

 その結果、埋立地が鉛、水銀、カドミウム等の重金属で汚染されることになる。その7割が電子製品から流出したものと推定されている。

 「米国では廃棄インフラが整備されていない。ひとつには廃棄(費用)が購買価格と無縁になっていることが問題であろう。購買時には廃棄のことは完全に無視しているので、最終的に誰か――例えば、郡や市のような自治体が、その責任を負わされることになる。さらに問題なのは、新品のIT機器を導入した段階でそのライフサイクル中に排出されるCO2の7割が既に(製造過程で)排出されていることです。つまり省エネなどを一生懸命やっても、コントロールできるのは3割しかないことになります。本当に環境問題に取り組もうと思えば、メーカーに要望するしか方法がないわけです。そこで、購買力を武器にして圧力をかけることになります」(ペリー氏)。

図●パソコンは製造過程をグリーン化しないと効果が薄い
図●パソコンは製造過程をグリーン化しないと効果が薄い
NASCIOの配付資料より

 だが、購買サイドの州政府などが個別にメーカーに環境基準の強化をいくら要望しても、あまり効果は望めない。

 「このような要求が企業サイドの事業方針などに影響を与えるためには、要望を束ねて1つの声にすることが必要です。各州がバラバラに企業と交渉して、それぞれ規格などをまとめると、企業側は混乱して対応できません。水銀ひとつにしても、いくつもの規格が出てくるわけです。また企業サイドにも共通規格が無いので、バラバラの規格に基づいた仕様書が提出され、購買サイドが簡単に比較できないということになります」(オブライアン氏)。

 この共通規格として作られたのがEPEATだ。EPEATは材質、廃棄デザイン、省エネ、梱包など51項目にわたる総合的な環境規格だが、GECがその管理・運用の責任を担っている(立ち上げ段階では米国環境保護庁が助成金を出して支援)。メーカーはGECと加盟契約を結び、イピート規格に準処した製品の製造販売をするが、GECは抜き打ち検査を実施して製品が規格に合格していることを保証している。

 「EPEATには3段階(ブロンズ、シルバー、ゴールド)の評価基準があるので、メーカーは競ってゴールド評価一番乗りを目指した。その結果、ビジネス向けパソコン等のグリーン化に拍車がかかった。と言うのも、連邦政府機関は購買するIT機器の95%以上がEPEAT規格に適合しなければならないと決めているからです」(オブライアン氏)。

19自治体がEPEATを購買の尺度に採用

 購買サイドである地方政府をみると、オレゴン州を含め少なくとも19自治体(8州、9都市、および2郡)がEPEAT規格を購買の尺度にしている。だが、EPEATお墨付きの器具を買う際に登録の必要はないので、現実にEPEAT規格を採用している自治体の正確な数は把握できていないと言う。

 メーカーサイドに注目すると、現在29社がGECに加盟し、EPEAT規格に準処する電子製品は825種類になるという。日本勢では富士通、NEC, パナソニック、ソニー、それに東芝が参加している。

 「EPEATというのは、具体的にどの程度のグリーン化が要望されているかをメーカーに伝えるツールであると同時に、購買サイドからすれば各種の環境規格をセットにしてワンストップショッピングで機器を選ぶツールと言えるでしょう」(オブライアン氏)。

 最後に、オレゴン州が実践している「引き取り(テークバック)」制度に触れておこう。

 「各局では業者の製品引取りが決まりになっていて、廃棄される機器は環境保護庁の指針に基く方法で処分されることになっている。もちろん購買の際にそのコストを加算するわけです。こうして業者は契約によって適切な廃棄処分を義務付けられています」(ペリー氏)。