全米州CIO協会(NASCIO)の年次総会が9月21~24日にミルウォーキー市(ウィスコンシン州)で開催された。米国では環境・エネルギー問題は一部の進歩的な市民の「道楽」と見られ、国民の総意とは言いがたい状況が長く続いたが、石油の高騰で事態が一変した。エネルギー問題が台所事情に直結したことで、全国的に省エネや自然エネルギーへの関心が高まっている。こうした事情を背景に、グリーン行政は今年のNASCIO年次総会総会の目玉テーマの1つとして注目を集めた。総会のプログラムより「グリーン行政の推進」の模様をリポートする。(石川幸憲=在米ジャーナリスト)

グリーン行政の推進(Gearing Up for Greener Government)

司会:
 ポール・テイラー(Paul Taylor) Center for Digital Government
パネリスト:
  ビル・ワイル(Bill Weihl) グーグル グリーン・エネルギー統括者
 ケン・タイス(Ken Theis) ミシガン州CIO
 ペギー・ワード(Peggy Ward) バージニア州CSO

セッションの様子
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 セッションの開かれた大会議室は満席で、グリーン行政への関心は例年になく高いものであった。自治体のITランキングなどで知られる調査会社Center for Digital Governmentのテイラー氏がパネリストを紹介した後、会場の聴衆にアンケート形式の質問を投げかける形でセッションが始まった。各出席者が手元に配られた小型のデバイスを使って選択肢の番号を押せば、即座に回答が集計され正面の大型スクリーンに結果が映し出される仕組みである。

 例えば、「グリーンIT推進の理由は」という問いかけに対し、回答者の68%がボトムライン(最終的なプラス)を挙げた。「グリーンIT戦略や実践についての知事の支持は?」という質問は州CIOに限られたが、61%が「100%の支持」と答えた。「テレワークの最大の効果は何か」と問われ、会場の38%が「生産率アップ」、31%が「ガソリン節約」と回答するなど、何となく現場の声が聞こえてくるような仕掛けである。

 このセッションでは、(1)コンピュータ機器の省エネ基準、(2)環境問題と地域経済、(3)テレワークという3つの視点から行政のグリーンITへの取り組みについて議論が行われた。

クライメート・セイバーズ・コンピューティング・イニシアチブ構想

 全世界で50万台のサーバーを稼動させていると噂される(実態は不明)米グーグルは、コンピュータの省エネ化や再生可能エネルギー利用に積極的に取り組んでいることもよく知られている。同社の本社(カリフォルニア州)では9000枚以上のソーラーパネルが駐車場に設置され、太陽発電が消費電力の3割をカバーしているそうだ。

 そのグーグルが米インテルと組んでコンピュータの省エネ化に取り組み、2007年6月に ITに特化した温室効果ガスの削減活動を行う非営利団体「クライメート・セイバーズ・コンピューティング・イニシアチブ」を立ち上げた。2010年までにコンピュータの電力消費量の半減を目標にしている(関連記事)。

 グーグルでグリーン化の陣頭指揮をとるビル・ワイル氏は、設立に至る経緯を振り返りこう述べた。「ユーザーが買っていたサーバーは、電力の視点から見ると極めて効率の悪いものだった。メーカーサイドは、『省エネ型コンピュータを作りたいが、値段が少し高くなる。そうするとお客さんは買わなくなる』と主張する。そこでユーザー企業のCIO(複数)に聞いてみた。すると、『省エネ型のサーバーを買いたいのでメーカーにエネルギー効率を尋ねたが、エネルギー効率の基準がなく各メーカーはバラバラな評価法を使っていたので、比較ができず不満足な回答しか得られなかった』という答が返ってきた。需要サイドと供給サイドの間に断絶があったというわけだ」。

 クライメート・セイバーズ・コンピューティング・イニシアチブの構想はこのギャップを埋めるために誕生したという。「この構想の面白い点は、省エネ型コンピュータ機器の需要拡大に重点を置いていることです。ユーザーサイドが省エネ機器を購買する際に必要な、ツールや情報を入手して活用できるようにすることが重要です」(ワイル氏)。

 構想のスタートには企業、大学、非営利団体など約40組織が創立メンバーとして参加した。現在ではメンバー数が300余りに急増し、その中には6自治体(4州2市)の地方政府が含まれている。

 クライメート・セイバーズに加入すれば、(1)省エネ型機器の購買(2)コンピュータの省電力設定の実現という2つの義務が生じる。

 「その結果、コスト削減が実現する。われわれのゴールは、IT機器のデザイン、製造、販売、購買という全過程でエネルギー効率を重要な基準にすることにある」(ワイル氏)。

なぜグリーン行政なのか(ミシガン州)

 自動車産業の隆盛は、ビッグスリーが本社を置くミシガン州に繁栄をもたらした。だが、21世紀に入り経済環境は豹変した。石油危機は、燃費の悪い大型車(いわゆるアメ車)への事実上の死亡宣告になった。メーカーには在庫がたまり、ミシガン州は全米で最悪の失業率に苦しむ州になった。

 「ミシガン州は自動車産業から脱皮し、再生可能エネルギーやバイオテク等の新産業に活路を見出そうとしています。わが州にはモノづくりの技術があるので、この伝統を利用しながら州経済の多様化を模索しています」――同州CIOのタイス氏はこう語った。自動車づくりで鍛えた技術力を風力発電用の風車づくりやバイオ技術の開発に応用しようという戦略である。

 同州のJ・グランホルム知事は省エネに熱心なことでも知られており、クライメート・セイバーズ・コンピューティング・イニシアチブにも参加している(州のIT部門が参加)。「ITは省エネの中核になるので、グリーン行政はCIOの手腕を示す絶好のチャンスだ」とタイス氏は強調した(関連記事)。

 「過去6年間でミシガン州は、州機関による電力消費を18%(金額ベースでは1年間で2100万ドル)削減しました。これは炭素に換算すれば1800万トンに相当し、1500台の車を1年間運転せずにセーブした分量です」(タイス氏)。

 なぜ省エネなのか、という問いに対しタイス氏は石油高騰の例を挙げながら説明した。「ガソリンが2ドル(1ガロン)に値上がりした時に、消費者は文句を言わずに買った。3ドルになると悲鳴を上げたが、それでもドライブした。だが4ドルの大台を越えると、SUV(多目的スポーツ車)を乗り回す人はいなくなった。電力も同じだ。供給が厳しくなり、価格が上がっている。この傾向が続けば、(1)省エネのリーダーになるか、(2)追随する2番手グループに入るか、(3)後手に回るかの選択を迫られるだろう。ミシガン州はグリーン型経済への転換を目指して(1)の選択をした。そうしないと、生き残れないと判断したからだ」。

テレワークというグリーン行政(バージニア州)

 バージニア州政府は約9万5000人の職員を抱える大組織である。2000年代初めから省エネ対策の一環としてテレワークに取り組んでいるが、その推進役を務めたのが州議会である。2010年までに州政府職員の2割以上がテレワークの形態で働くことを目標に掲げる条例を制定している(もちろん現業などの職種にはテレワークが適用されない)。コンピュータの消費電力という観点ではなく、職員が通勤に自動車を運転する機会が減ることが、グリーン化にも寄与するというわけである。

 バージニア州の規定によれば、テレワークとは1週に1日(あるいは月間32時間)情報通信機器を活用して在宅で仕事をする働き方である。州CSOであるワード氏も毎週金曜日は在宅勤務にしていると言う。

 条例が施行され、現在5200人弱がテレワークをしているが、昨年実績からほぼ倍増している。その数は毎月増え続けているそうだ。

 テレワークの効用は何なのだろうか。

 「テレワークのお蔭でコスト削減が実現している。机などを共有することで事務所のスペースが減りオフィスコストの抑制が可能になっている。職員にとってもワーク・ライフ・バランスが向上する。」(ワード氏)。

 もちろん最大の関心は個人情報の漏洩(セキュリティー)であろう。会場からの質問に答えて、ワード氏はこう語った。

 「そのリスクがあることは事実だが、現実には誇張されていると思う。バージニア州では州政府が所有する情報を個人のコンピュータ機器に保存することを禁止している。原則として州支給のPCが自宅に設置されインターネット経由で各種の情報にアクセスしながら仕事をしている。セキュリティ・リスクは事務所か在宅かという勤務形態に関係ないのではないか。最終的には生産性の問題で、結果重視の管理という視点から見れば、テレワークは効率がよい」。