東京農工大学大学院技術経営研究科教授
松下博宣

 プロフェッショナルを目指す人は誰でも、インテリジェンスの素養を涵養すべきである。第1講で説明した通り、インテリジェンスは、個人、企業、国家の方針、意思決定、将来に影響を及ぼす外部の情報を収集、分析、管理し活用する一連のプロセスを指す。すなわちインテリジェンスは個人、企業、国家の基礎体力、基礎的な知力であり、したがってプロフェッショナルが身に付けておくべきものと言える。

細分化が進むインテリジェンス

 インテリジェンスにおいては、多様な知や知の素材を扱う要請が強い。主としてデータや情報の収集手段を軸にして便宜的に次のように分類される。

(1) オシント(OSINT;Open Source Intelligence):
新聞、雑誌、公開企業の財務諸表、営業報告書、学術論文など、一般的な活字媒体やインターネットから得られるデータ、情報、知識。ソースコードが公開されているオープンソース・ソフトウエアも含まれる。

(2) ヒューミント(HUMINT; Human Intelligence):
人が人に接触して収集するデータ、情報、知識。相手の経歴、身体的特徴、思想傾向、雰囲気、性癖、言語化されない暗黙知も含まれる

(3) シギント(SIGINT; Signal Intelligence):
通信、電磁波、信号などを傍受して収集されるデータ、情報。シギントはさらに以下のように分類される

・コミント(COMINT: Communication Intelligence):
通信傍受や、暗号ならびにトラフィックの解読によって得られるデータ、情報
・エリント(ELINT: Electronic Intelligence):
レーダーなど非通信用の電磁放射から得られるデータ、情報
・アシント(ACINT: Acoustic Intelligence):
水中音響情報などによる潜水艦、艦船および水中武器の音響から得られるデータ、情報

(4) イミント(IMINT: Imagery Intelligence):
航空機や偵察衛星によって集められる画像的データ、情報

(5) テリント(TELINT: Telemetry Intelligence):
開発実験や訓練活動の際に発信される信号(テレメトリー)から得られるデータ、情報

 データと情報の収集手段の多様化にともない、このようなインテリジェンスの細分化が進んでいる。インテリジェンスにおいて、多用されるデータと情報は、一般的な活字媒体やインターネットから得られるオシント、人が人に接触して収集するヒューミントから得られることが多い。ちなみに筆者は技術インテリジェンスに関するコンサルティングにおいても、オシントとヒューミントを重視している。

 さらに、上記以外にも色々なインテリジェンスのソースがある。例えば、政府要人や企業のトップの健康状態を知るために、その人物が宿泊するトイレやバスタブから排泄物、体毛、皮膚の残存物などを採集し、確定的な診断名まで遡及することはよくなされている。