損保ジャパンのCIO(最高情報責任者)である櫻田謙悟・取締役常務執行役員
写真撮影:北山 宏一

 損保大手の損害保険ジャパンは2007年から、業務改革とシステム再構築を同時に進める「リテールビジネスモデル革新プロジェクト(PT-R)」に取り組んでいる。2011年の本格稼働を目指す。投資額約300億円、総工数は1万3000人月の大規模プロジェクトだ。同社のCIO(最高情報責任者)を務める櫻田謙悟・取締役常務執行役員は、「失敗すれば業績に影響するという覚悟で取り組んでいる」と話す。

 損保ジャパンは一連の保険金不払い問題で2006年に業務停止命令を含む厳しい行政処分を受けた。その後にCIOを任された櫻田氏は、システム・業務プロセスを通じた社内風土改革に取り組んできた。「スローガン的な『お客様視点』ではなく、本当にお客様のほうを向かなければ生き残れない」と話す。自動車保険に“ゴルファー保険特約”が付帯するなど、特約が複雑になった商品設計が過去の不払いの遠因になった。

 PT-Rプロジェクトでは、「事務・IT主導」を掲げ、複雑すぎて顧客にスピーディーな対応ができなくなるような商品設計を避け、事務・ITもシンプルな仕組みを目指している。PT-Rの第1弾として、2008年2月に発売した個人用自動車保険「ONE-Step」では、特約は従来商品の126個から69個まで減らした。一方で、顧客別に自動的に印刷する冊子で補償の内容が一目で分かるようにするなどの工夫を凝らした。

 損保業界の足下の環境は厳しい。損保ジャパンも、世界的な金融危機による金融保証保険支払いや有価証券評価損を見込んでおり、2009年3月期は570億円の当期純損失を見込む。損保業界の3大収入要因である、「人口」「住宅着工件数」「自動車登録台数」はいずれも減少に向かっている。

 櫻田氏は「損保は“構造不況業種”だが、それほど悲観はしていない。製鉄や繊維など過去に構造不況業種と言われた企業も、革新に成功した企業はちゃんと生き残っている」と話す。新システムによる革新で低コスト体質を築き、生き残りを図る狙いだ。

 櫻田氏はCIO就任より前に情報システム部門の経験はなく、「私は素人。自分のような古い人間に最新技術はよく分からない」と話す。一方で、発売されてすぐにiPhoneを自分で使い始めるなど、新技術の勉強に余念がない。「技術的に大きな変化が起きたら、プロジェクト途中であってもシステム内容を見直したい」と言う。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・「定期的」「具体的」「大局的(観)」を心掛けています

◆ITベンダーに対し強く要望したいこと、IT業界への不満など
・ソフトウエアなどのバージョンアップの頻度が多過ぎるのではないかと思います

・価格決定メカニズムに不満があります。一層の透明感とベンチマーキングを期待したいと考えています

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・日経新聞
・The Economist

◆お勧めの本
・『その数学が戦略を決める』(イアン・エアーズ著、山形浩生訳、文芸春秋)
・『アホは神の望み』(村上和雄著、サンマーク出版)

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・少人数(10人程度)のCIOが集まる情報交換会や経営者層との勉強会に参加しています。前者は主としてシステム関連がテーマです。後者は経営・文化・CSRなど幅広い分野の勉強会に参加しています

◆ストレス解消法
・落語観賞、昼寝、楽器演奏、テニス、テレビゲームなど