原稿を書く場合、できれば数年先であっても読んで頂けるものを書こうと心がけている。経営に役立つ情報システムのあり方、情報システムの安全性に関する考え方、といった内容はかなり普遍的なので、仮にそこに引いてある事例が古くなっても再読には案外耐える。

 これに対し、IT企業の経営戦略に触れた記事は再読すると辛いものが多い。IT以外の企業経営に関わる方にも参考になりそうな話を選んで書いてきたつもりだが、どうしても取り上げた企業に固有の話になってしまい、いかにも古いニュース解説のように読めてしまう。

 もっと困った記事もある。進行中の出来事について予測あるいか感想のようなものを書き、記事公開後に出来事の結果が出て、しかもそれが記事内容と大きく食い違っていた時だ。「それは誤報だろう」と仰るかもしれないがそれとは少し異なる。話題になっていた出来事を取り上げているものの、筆者が書きたかったのは出来事の結果予測ではなく、別なところにあるからだ。

 今回、その「困った記事」の代表例を2本まとめて掲載する。2008年2月5日に日経ビジネスオンラインに公開した『米大統領選、マケイン氏報道に見る日米の情報格差』と、2008年9月5日にやはり日経ビジネスオンラインに掲載した『次期首相のITの“情識”に期待、国民総背番号制の導入決断を』である。

 前者は先の大統領選で敗れたジョン・マケイン上院議員を巡るコラム、後者は麻生太郎首相が就任前に書いたコラムである。ただし原題をよく見て頂くとお分かりのように、筆者が書きたかったのは前者においては「日米の報道の差」であり、後者では「国民総背番号制への期待」であった。この二つのテーマ自体は今でも古びていないと思い、あえて二つの記事を再掲する次第である。

 とはいえ、読み直してみると、明らかに筆者はマケイン氏と麻生氏に好意的である。マケイン氏が落選し、麻生氏の支持率が低迷している今、「誤報」と叱られても仕方がないかもしれない。しかし言い訳に聞こえるかもしれないが、言いたかったことは上記の通りである。

 以下は、2008年2月5日に日経ビジネスオンラインに公開した『米大統領選、マケイン氏報道に見る日米の情報格差』を再掲したものです。再掲にあたって加筆修正をしています。

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 2007年末に、コラムを書こうと思って取材をしたり調べたりしたものの、執筆に至らなかった題材を整理し、パソコンに入力した。ファイル名は「2008年宿題.txt」である。何としても書かないといけない宿題のリストは非常に長いものになってしまった。本来、2007年春頃に書けたはずだったのだが、出稿できないうちに、日本経済新聞や日経ビジネスなどに関連記事が掲載されてしまったネタ、読者や関係者に「書きます」と約束したネタがいくつもある。日経ビジネスオンラインに関する部分には、「日本で報じられないマケイン氏」というメモがあった。今回はそれについて書く。

 マケイン氏とは、米国大統領選で共和党の候補を目指しているジョン・マケイン上院議員を指す。趣旨は題名にある通り、米国と日本の報道の差、すなわち「情報格差」を指摘することにある。本コラムは政治欄ではないから、大統領選の帰趨を論じるわけではない。