世界レベルの株安でも、当のご本人の池原(進・日興シティグループ証券情報システム本部長)さんは落ち着いている。それもそのはず、これまで4社の外資系証券で働き過去20年に4回の大きな株暴落を経験しているからだ。経営者感覚には市場の浮き沈みを経験するほうがいいとまでおっしゃる。IT(情報技術)とファイナンスの両刀を池原さんほど極めた方は日本にはいないだろう。

 1980年代半ば金融緩和政策で外資が東京証券取引所の免許が取れるようになった。倍々ゲームで組織を拡大する外資は、米国の大学を出たIT専門家の才能を求めたのだ。最初のファーストボストンではボスと2人という組織から始め、生みの時代を経験。その後ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレーと華のキャリアを積んでいく。

「CIOは中小企業の社長だ」

 転機は、その後、アクサ生命からCIOのオファーがあった時だ。池原さんは初めて迷った。同じ金融外資でもアクサは保険会社、そして親会社は米国ではなくフランス。しかも、日本の会社を買収しているので従業員のほとんどが日本人。今までの外資の経験が生きない。現場の日本人が能動的に動いてくれない。しかし、やがてこれが誤算であったことを知る。現場は、正しいディレクションさえすれば、想像以上の能力を発揮した。

 それまではコストセンターと見られていたIT。このブラックボックスをすべて公開して、従業員には会社の方向性を、会社にはどこにお金を使うべきかを提示した。この経験でテクノロジーをビジネス(事業)に生かす方法は業態が違っていても普遍的であることが分かった。経営が求めるビジネスモデルを理解すればITの価値は飛躍的に上げられる。理論としては分かっていたことを実践できたことが最大のアチーブメントだった。

 池原さんは「CIOは中小企業の社長だ」と言う。数十から数百人の社員を雇い統率する、リーダーとして市場の中でどうやって物が売れるかを調査する、ものを作るためにチームの能力を向上させる、ビジネス要件を最大効率で達成するために、与えられたお金とリソースの配分をする。

 テクノロジーで会社の成長を支えてきた人の言葉は妙に安心感がある。

石黒 不二代(いしぐろ ふじよ)氏
ネットイヤーグループ代表取締役社長兼CEO
シリコンバレーでコンサルティング会社を経営後、1999年にネットイヤーグループに参画。事業戦略とマーケティングの専門性を生かしネットイヤーグループの成長を支える。日米のベンチャーキャピタルなどに広い人脈を持つ。スタンフォード大学MBA