企業を支える基幹システムのユーザー・インタフェース(UI)が、機能美を追求し始めた。シャープの経営陣が毎日の意思決定に使う「エグゼクティブ・コックピット」は、全世界の経営データの「見える化」を実現した。システムのUIを手掛けたのはデザイン会社サイトフォーディー。社長兼クリエイティブディレクターとして率いるのは隈元章次氏。「デザインは企業価値を最大化させる。それを理解できるクライアントとだけお付き合いしてきた」と言い切る。

隈元 章次(くまもと・しょうじ)氏
写真=後藤 究

 個人事業時代から数えると約10年間、デザイナーそして社長としてサイトフォーディーを経営してきました。主要事業はWebサイトやRIA(リッチ・インターネット・アプリケーション)のデザインです。

 ほとんどの企業がUIのデザインをないがしろにしています。おまけだと思っている。だけど本当は、UIのデザインは企業活動の根幹にかかわる重要なものです。この考え方を10年間、ずっと追求してきました。業界トップクラスの企業は、この考え方をご理解いただくスピードが早い。案件がスッと進んでいきますね。

 デザインの目的は、企業の経営戦略を加速させること。経営戦略を踏まえて情報のあり方や扱い方を設計し、それをUIのデザインとして実装していきます。ユーザーはどんな目的で、どんな判断プロセスを経るのか。その過程でいつどんな情報が必要か。その情報をどのように見せ、どう操作できるといいのか。つまり私たちは画面をデザインしているわけではなく、価値を最大化させるように使う人の行動をデザインしているのです。

 私はスタッフにはそんなに怒りませんが、クライアント企業には平気で怒ります。一緒に戦うくらいの気持ちでないと、いいデザインはできない。

 隈元氏は大学時代からソニー傘下のインターネットサービス会社でデザインやソニーグループのWebサイト構築を手掛けていた。自らの能力を生かしたい、もっとデザインを追求したいという思いから2000年に合資会社としてサイトフォーディーを設立。営業活動もメディアへの露出もほとんどなし。クチコミと人づてでクライアント企業を獲得していった。

 ソニー時代は給料もいいし環境もいいし、何の問題もありませんでした。ただ1点だけ不満だったのが、会社が大きすぎてお客さんが見えないことでした。自分の作品が本当に良いのかわからない。いろいろ考えて、自分のデザインを追求するのであれば自分で会社を立ち上げるしかないと決めました。

 クチコミと人づてで仕事が獲得できてきた理由ですか? 自分の考えを貫いた上で、お客さんの要望に応えてきたのが大きいのではないでしょうか。「1回この人に会ってみな」という形でいろんな方の紹介を受けて、結果的にうまくいっています。

 今、ハードソフトに限らず、日本のメーカーはUIのデザインをトッププライオリティに置くという考え方はありません。アップルが「iPhone」を投入した後、ある家電メーカーから相談を受けました。「iPhoneを超えるUIをデザインしてほしい」と。日本の家電メーカーは世界のどこにも負けない技術力を持っているのに、iPhoneを基準に考えている。悲しいとしか言いようがありません。

 業務ソフトはもっとひどい。UIなんてユーザーが操作教育を受けないと使えない。操作教育がビジネスになってしまっている。ユーザー側がこのこと自体に疑問を持たなければいけないのに、そんな風潮はない。

 デザイナーとして問題を提起するのは、自分の活動が、後に続くデザイナーのためにも大切だと思っているからです。Webデザインについて言えば、デザイナーの労働環境は劣悪。多くのクライアント企業の意識は低い。これではいつまでたってもデザインは良くなりません。

 ITが社会に浸透してきたことで、世の中は「UIだらけ」になりつつあります。病院や駅で、命を支えるUIや社会を支えるUIが求められています。そこに私は入っていきたい。まずは「RIAの開発で世界のトップに立つ」という意気込みでやっていきます。

隈元 章次(くまもと・しょうじ)氏
サイトフォーディー 代表取締役/クリエイティブディレクター
大学在学中からソニーグループのWebサイト制作に携わる。2000年に合資会社スタジオサイトフォーディー(現サイトフォーディー)設立。2002年に株式会社化し現在に至る。1976年4月生まれの32歳。