「ヒトもカネもない中小企業でも,やればできる」---菅雄一氏は関西のある企業のたった一人のシステム担当である。従業員約200人の製造業で,ほぼ独力でネットワークを引きサーバーを立て,社内向けのグループウエアや顧客向けのQ&A情報検索システム,販売システムなどを構築してきた。

 ミドルウエアとして使っているのは,すべてオープンソース・ソフトウエア。ハードウエアの代金と回線料を除けば,費用はほぼ菅氏の人件費だけだ。

最初はエラーの連続

 菅氏がシステム内製を始めたのは,2000年に同社がインターネットに接続したことがきっかけだった。この時,インテグレータから提案されたサーバーの費用は,営業所や本社のパソコンの設定変更,ファイアウオールなどを含めて100万円以上。それを見た菅氏は「10万円のパソコンにLinuxを入れればもっと安くできるのに」と思った。

 菅氏は思っただけでなく,実際に行動した。自前でサーバーを作り,会社のメール・サーバーにしてしまったのである。サーバーを1ケタ安く実現できただけでない。システムインテグレータは「慌てふためいて,せめてファイアウォールを買ってもらおうと設定費を無料にするなどの値引きをしてきた」(同)。

 実は,菅氏はLinuxにそれほど詳しいわけではなかった。理系の大学でUNIXも触っていたが,サーバーを構築した経験があったわけではない。Linuxを扱うのも初めてだった。そもそも「営業事務などを担当する正真正銘の事務員」(同)だった。

 「最初はグローバルIPアドレスとプライベートIPアドレスの違いも知らなかった」という菅氏は,最初のうちは本の丸写しで試してみてはエラーの連続だった。しかし,次第に「あてずっぽうの設定を繰り返してなんとか動くようになった」(同)という。

 その後,菅氏はWebサーバーや顧客向けのQ&A情報検索システム,販売システムなどを一つひとつ作り上げていった。Webサーバーは最初社長のお古のパソコンにLinuxをインストールしたものを使った。さすがにデザインは,ホームページ制作の専門学校に通っていた元社員に依頼したという。後になってオープンソースのコンテンツ管理システムであるPukiWikiに移行している。

 Webアプリケーションを作るのも初めてで,PostgreSQLというオープンソースのデータベースが使えると聞き,本を見ながらインストールしてみた。最初のうちはPostgreSQLを動かす際に多くの不明点に遭遇。そのたびにメーリングリストに助けを仰いだ。

元手をかけずに業務改善

 こうしてQ&A情報検索システムを作ってみたものの,最初は顧客の利用が少なく閑古鳥が鳴いていたという。原因を調べたところ,顧客はネットで調べるよりも電話で聞くほうが楽だと感じていることがわかった。

 菅氏はシステムの使い勝手の改善を進めた。その結果,Webの利用が増え,電話での問い合わせが減っただけでなく休日の電話対応も廃止できた。「お金をかけずに業務を効率化できた」(菅氏)。元手がかかっていないことから,システムの利用率が低かったときでも「『誰のせいだ』といった責任のなすりあいは起きなかった」(同)という。

 一部のシステムではパッケージを利用している。インターネット販売システムは当初すべて自前で開発したが,2006年にEC(電子商取引)サイト構築パッケージの採用に切り換えた。自作のアプリケーションはセキュリティ面などに懸念があったためだ。

 ここでも使っているのはオープンソース・ソフトウエアである。「楽天のショッピングモールや,レンタルサーバーのオプションにあるネット販売サービスなどを検討したが,役員会の結果それらは費用が高いので『自作しろ』となった」(菅氏)。

 そこで菅氏が選んだのは,大阪のベンチャー企業であるロックオンが開発したオープンソースのEC(電子商取引)サイト構築パッケージの「EC-CUBE」だった。EC-CUBEはコードを書くことなく様々な設定ができるが,菅氏はEC-CUBEの開発言語であるPHPのソースコードを調べ,ログインしたユーザー以外には商品の価格が表示されないようカスタマイズして利用している。