クラウドコンピューティングの大波が日本にも本格的に到来する。国産大手が相次いでクラウドの基盤提供に乗り出す。各社はデータセンターにインフラや開発・運用支援環境を用意。ユーザー企業やSaaSベンダーに売り込む。選択肢の充実でクラウドの流れが加速しそうだ。

 グーグル、アマゾン、セールスフォース――。米国ベンダーの独壇場だったクラウドコンピューティングの風向きが変わりつつある。国内の大手ITベンダーがネット経由でアプリケーションを開発・利用したり処理能力を柔軟に増強したりする「クラウド基盤サービス」を相次いで開始するからだ。

 NTTデータは10月1日、仮想化技術を使って複数顧客でハード資源を共有するクラウド基盤サービスを開始した。三菱商事系のアイ・ティ・フロンティアも10月7日、文書管理アプリケーションに重点を置いたSaaS基盤サービスの試験提供を始めた。

 同様な基盤サービスを発表済みのベンダーも10月から陣容を拡大する。NECは今年3月、日本ユニシスは6月に、それぞれクラウド基盤サービスを発表済み。自社基盤上で稼働するSaaSを提供する事業者を募り、10月からサービスを本格展開する。

 伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)は10月に東京都文京区に開設した新デ ータセンターをクラウド基盤サービスの拠点として活用。横浜など既存のセンターと組み合わせる。

 日立製作所は同社が運営する企業間ネット取引サービス「TWX-21」を利用する。来年にかけて受注管理や倉庫管理といった製造業向けSaaSを開始する。これに先だって5月から、図面や仕様書の管理サービスを開始済みだ。新日鉄ソリューションズ(NSSOL)はホスティング基盤サービス「absonne」を昨年から始めている。この10月には第一号となるユーザー企業のシステムが稼働を開始する。

仮想資源でホスティング

 各社が提供するクラウド基盤サービスは、2種類に分類できる。一つは仮想化したハードウエア資源を提供して、ユーザーのアプリケーションをホスティングするタイプ(図1の左)。NTTデ ータ、CTC、NSSOLの各サービスが該当する(表1)。

図1●「クラウド基盤貸しサービス」が相次いで始まる<br>仮想化したハード資源を提供してユーザー・アプリケーションをホスティングするタイプ(左)と、SaaSの開発や運用を支援するタイプ(右)に分かれる
図1●「クラウド基盤貸しサービス」が相次いで始まる
仮想化したハード資源を提供してユーザー・アプリケーションをホスティングするタイプ(左)と、SaaSの開発や運用を支援するタイプ(右)に分かれる
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表1●ホスティング基盤サービスの例
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表1●ホスティング基盤サービスの例

 ユーザー企業はサーバーやストレージを自社で所有したり運用したりする必要がない。各社ともアプリケーション開発サービスを提供するメニューも用意している。

 各社のサービスの特徴は従来のホスティングに比べて初期費用や資源増強に必要な時間を削減できること。顧客ごとに物理的なハードを用意するのではなく、仮想化技術を使ってハード資源を複数のユーザー・アプリケーションで共有する。あるユーザーの処理能力が不足したら、仮想化したサーバーなどを割り当てる。

 料金は基本的に月額固定。CTCのサービスを例にとると、サーバー1台(2.6GHz動作のx86プロセサ1個相当)で月額3万円。自社で用意すると月額80万~100万円かかる標準的なWebシステムを60万円程度で利用できるという。NSSOLも5年間のトータルで費用を20%以上削減できるとしている。

 ホスティング基盤サービスの先駆者は米アマゾン・ドットコム。仮想サーバー資源の時間貸しサービス「EC2」など、複数のメニューを持つ。

 国内各社とアマゾンの最大の違いは契約期間。EC2などの契約期間は最短で1時間からと、極めて細かい単位で利用できるのに対して、国内各社の期間は1カ月から1年単位だ。

 「一般消費者の利用も想定しているアマゾンに対して、企業情報システムが対象だから」。CTCでデータセンター設計を担当する岩本誠氏は契約の単位期間が長い理由を説明する。「サーバ ー、ストレージ、ネットワークに加えて、セキュリティや負荷分散といったサービスも含めたシステム一式をホスティングする」ことで、企業利用時のメリットを打ち出す。

 CTC以外の各社も日本語のサポートを充実させたり回線速度などに選択肢を設けたりと、サービス品質に力を入れてアマゾンと差異化する考えだ。