米マイクロソフトのクラウドコンピューティング戦略がようやく姿を見せた。狙うのはWindows 環境をそのままクラウド上に再現すること。クラウド版Windowsなどの基盤サービスを用意。既存のシステムや開発スキルといった同社最大の「資産」をフル活用する。

 「今日のイノベーションはバックエンド、つまりデータセンターで起きている。クラウドを通じて全世界何千万もの潜在顧客に向けてサービスを提供するためのプラットフォームが必要だ」。マイクロソフトのチーフ・ソフトウエア・アーキテクトであるレイ・オジー氏は、こうぶち上げた(写真1)。

写真1●Windows Azureを発表するレイ・オジー氏
写真1●Windows Azureを発表するレイ・オジー氏
基調講演の会場は立錐の余地がないほどの観客であふれた

 この発言は10月27日から30日にかけて米ロサンゼルスで開催した開発者向け会議「PDC 2008」で、基調講演に立ったときのものだ。オジー氏は同時に「Windows Azure」をはじめとしたクラウド基盤サービスを初披露した。

 Windows Azureは一部で「Windowsクラウド」と噂されていたもの。「従来のソフトウエアではなくマイクロソフトのデータセンターで稼働する、Webベースの新世代Windowsだ。最高レベルの信頼性を備え、仮想技術を駆使した柔軟な拡張性を持つ」。オジー氏はWindows Azureをこう紹介した。

Windows版のホスティング環境

 Windows Azureの実体は、Windows技術を使って開発したWebアプリケーションを容易に稼働・運用できるホスティング環境である。ASP.NETなどで開発しIISやWindows Server上で稼働させている既存のWebアプリケーションをそのまま動かせる。各種のデータ管理機能、物理ハードウエアを抽象化する仮想資源管理、稼働状況の監視など、Windows Serverの基本機能を提供する。

 ただしWindowsの名称を持つものの、いわゆるWindowsのアイコンやウインドウはない。利用者に見えるのはWebブラウザ内の管理コンソール画面のみ。Visual Studioなどを使って開発したアプリケーションを、管理コンソール経由でマイクロソフトのデータセンターに転送する。

 クラウド基盤としてWindows Azureは、アプリケーションに仮想サーバー単位でハードウエア資源を割り当てる。この点は米アマゾン・ドット・コムが提供している「EC2」と同様だ(EC2の詳細は今号108ページを参照)。PDCで公開したデモでは、アプリケーションを稼働させる仮想サーバーの台数を増やす様子を披露した。1台分の仮想サーバーを割り当てていた状態を、管理コンソールから数字を変更することで仮想サーバーの台数を増やしてみせた。

既存資産を武器に主導権を狙う

 マイクロソフトの狙いは、「Win-dows Azureによってクラウドサービスとオンプレミス(ユーザー企業による自社所有型)のシステムを対称に利用可能にする」(サーバーや開発ツール事業を統括するボブ・マグリア上級副社長)ことにある。ここで言う対称とは、Windows ServerやSQL Serverなどのソフトウエアと同じ機能や技術を、クラウド上に再現することだ。Win-dows開発者のスキルや開発言語、運用管理技術などをそのまま活用可能にして、既存システムやWindows上の製品を移植しやすくする。

 グーグルやアマゾン、セールスフォース・ドットコムといったクラウド分野で先行する競合に比べてマイクロソフトが確実に優るのは、圧倒的な数の既存資産である。同社の優位点を生かして、クラウド分野の主導権確保を狙う。

 そのためにマイクロソフトは、Win-dows Azure上でのアプリケーション開発や運用を支援する各種のサービスも併せて発表した。いずれも既存のWindows技術を応用したものだ。Windows Azureも含めたこれらのサービス群を、同社は「Azure Services Platform」と呼んでいる()。

図●マイクロソフトのクラウド基盤「Azure Services Platform」の全体像
図●マイクロソフトのクラウド基盤「Azure Services Platform」の全体像
OSに相当する「Windows Azure」に加えて、データベースやアプリケーション間連携などの基本機能を提供する

 例えば「.NET Services」は、Windows用ミドルウエアである「.NET Framework」と同じ技術を使って、ワ ークフロー管理、アクセス制御、サービスバス機能などを利用できる。サービスバス機能は、「(.NET Frame-workの通信管理機能である)Windows Communication Foundationと同様、社内システムとクラウド上のサービスを疎結合するための機能だ」(ジョン・シューチャック テクニカルフェロー)。

 このほかマイクロソフトは、Azure環境のシステム運用管理サービス「Atlanta」やユーザー情報管理サービス「Geneva」、モデリングサービス「Oslo」も発表(いずれも開発コード名)した。一連のAzure基盤は開発者向けに無償公開されている段階。同社は2009年内の商用サービス化を目指す。料金は利用時間やストレージ使用量などに応じた従量課金制になるという。