米アマゾン・ドット・コムのクラウド基盤サービスは、すでに付加サービスを提供するサードパーティも存在し、「エコシステム」が出来上がりつつある。ただ、まだまだ課題も多い。可用性への不安は機能強化により解消されつつあるが、SLAの面では大きな課題を残している。
EC2に関しては当初、可用性への不安が挙がっていたが、アマゾンはこうした不満を解消すべく、EC2の機能を徐々に増やしている。2008年3月から始まった「Elastic IP Address」と「Availability Zone」は、ディザスタリカバリ(災害対策)を意識したサービスだ。
Elastic IP Addressは、ある仮想マシンが停止した際に、別の仮想マシンに処理が引き継げるよう、複数の仮想マシンを同一のIPアドレスで運用できるサービスだ。一方、Availability Zoneは、複数のEC2仮想マシンを物理的に異なるデータセンターで運用するというサービスである。
もし、アマゾンのデータセンターが1カ所丸ごとダウンしたとしても、Elastic IP AddressとAvailability Zoneを組み合わせれば、別のデータセンターでサービスを継続できる。
さらにアマゾンは2008年10月、今後追加するEC2の付帯サービスも発表した。サーバーに対する負荷を均等に分散するロードバランシングや、アプリケーションの負荷に応じてサーバーの台数を増やすスケーリング、EC2の各サーバーの稼働状況を監視できるモニタリングツールなどだ。
すでにサードパーティも存在
もっとも、スケーリングやモニタリングツールは、アマゾンのサービスを待たなくても、EC2のユーザーなら今すぐ使用できる。なぜならEC2には、EC2の機能を拡張するサービスを提供するアマゾン以外のサードパーティが存在するからだ。
例えば、スケーリングや運用管理サ ービスを提供するベンダーとしては、米ライトスケールや米エラストラなどが存在する。
ライトスケールは、EC2仮想マシンをクラスタリングしたり、EC2で運用するMySQLのデータをS3に簡単にバックアップしたりするサービスなどを提供する。前述のアニモトがEC2の仮想マシンを50台から4000台にまで拡張した際には、ライトスケールのサービスを利用した。
Ruby on Railsもサービス化
米ヘロクは、日本発のプログラミング言語RubyのアプリケーションフレームワークであるRuby on RailsをEC2の仮想マシン上で運用し、Ruby on Railsのアプリケーション実行環境をサービスとして提供している。
ユーザーが、OSやミドルウエアのインストールや管理、サーバーの管理などを一切行わずに、アプリケーション実行環境だけを利用できるという点で、ヘロクはグーグルのアプリケーション・ホスティング・サービス「Google App Engine」によく似ている。またヘロクは、簡単な開発ツール(IDE)をWebアプリケーションとして用意しているので、ユーザーはWebブラウザさえあれば、RubyアプリケーションをEC2上で実行できる。
ライトスケールのCEOであるミカエル・クランデル氏は自らのサービスを「EC2のミドルウエア」と表現する。WindowsというOSに様々なサードパーティアプリケーションが存在するように、Amazon EC2にも、サードパーティサービスが存在するのだ。EC2にはこのような「エコシステム」が存在するのも、大きな特徴である(図4)。