新たなITベンダーとして登場した米アマゾン・ドット・コムの武器は、料金の安さと使い勝手の良さだ。仮想マシンの提供サービス「EC2」では、ユーザー企業が使いたい時に数百台~数千台の仮想マシンを低料金で利用できる。利用環境もワンクリックで構築できるなど革新的なサービスを提供している。

 アマゾンはサービスをすべて、従量課金で提供する(表2)。ユーザーはハードウエアやソフトウエアを使った分だけアマゾンに支払えばよい。

表2●Amazon EC2の利用料金
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表2●Amazon EC2の利用料金

 ユーザーにとってのアマゾンの魅力は、料金の安さと、圧倒的な使い勝手の良さだ。例えば米国の新聞社ワシントン・ポストは2008年3月、米民主党の大統領候補だったヒラリー・クリントン氏が、夫のビル・クリントン氏のファーストレディーを務めた1993年から2001年までの間にどのような活動をしたのかを、新聞・雑誌の記事から分析するのにEC2を使用した。200台の仮想マシンで、1万7841ページに及ぶデータを分析し、要した費用はわずか144ドルだった。

 また動画共有サイト「Animoto」をEC2上で稼働する米アニモトは2008年4月、利用する仮想マシンの台数をわずか3日で50台から4000台にまで拡張した。EC2を使えば、数百~数千台の仮想マシンを、使いたいときに、わずかな出費で使用できるのだ。

 Amazon S3も、保存するデータ容量1Gバイト当たり月額0.15ドルで利用できるという料金の安さから、多様な用途で利用されている。米ナスダックは2008年2月、「NASDAQ Market Re-play」という、その日の市場の動向を視覚的に再現するサービスを開始。そのデータの保存にS3を採用した。フラッシュ・メモリー・メーカーの米サンディスクも2008年1月、USBメモリーに書き込んだデータをオンラインストレージにバックアップするというサービスにS3を使用した。米国においてアマゾンのサービスは、大手企業にも受け入れられ始めている。

運用は至ってシンプル

 それでは、アマゾンの各種サービスがどのようなものかを見ていこう。

 同社のサービスの中核をなすのが、Amazon EC2。オープンソースの仮想化ソフトXenをアマゾンが自社データセンターで運用して、仮想マシンをサービスとしてユーザーに提供する。

 EC2では、仮想マシンで利用できるディスク・イメージ・ファイルを、1000種類弱もカタログ化している。ディスク・イメージ・ファイルには、各種OSやミドルウエア、アプリケーションがインストール済み。ファイルを仮想マシンにコピーして、仮想マシンからマウントするだけで、サーバーのセットアップが完了する(図2)。

図2●3分で終了するサーバーOSやアプリケーションのセットアップ<br>Amazon EC2には、各種OSやアプリケーションがインストール済みである「ディスク・イメージ・ファイル」が、1000種類弱登録されている。ユーザーがGUI管理ツールを使ってディスクイメージを選択すると、EC2仮想マシンにディスクイメージがコピーされ、およそ3分後に、OSやアプリケーションのインストールが完了する
図2●3分で終了するサーバーOSやアプリケーションのセットアップ
Amazon EC2には、各種OSやアプリケーションがインストール済みである「ディスク・イメージ・ファイル」が、1000種類弱登録されている。ユーザーがGUI管理ツールを使ってディスクイメージを選択すると、EC2仮想マシンにディスクイメージがコピーされ、およそ3分後に、OSやアプリケーションのインストールが完了する
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 EC2のOSとしてはLinuxやOpenSolaris、Windows Server 2008が、データベースとしてMySQLやOracle DB 11g、SQL Server 2008などが利用できる。

 操作も簡単だ。アマゾンはEC2のGUI管理ツールとして、WebブラウザFirefoxのプラグインとして機能する「Elasticfox」を配布している。Elasticfoxを使い、Oracleといったキーワードでディスク・イメージ・カタログを検索し、使いたいファイルを選んでマウスをクリックするだけで、作業は終了する。