2008年11月19~21日に千葉市・幕張メッセで国際放送機器展「Inter BEE 2008」が開催された。北京オリンピックが終了したこともありこれまで見られたハイビジョン(HDTV)への移行というテーマは影をひそめ,代わりに市場が立ち上がりつつある動画配信関連の展示・発表が数多く見られた。

サービス展開が本格化するIPTV・動画配信市場

 IPTV Summitのブースでは,12月1日にサービスを開始する「NHKオンデマンド」(NOD)を筆頭に,さまざまな動画配信サービスの展示が行われた。NODのブースでは,パソコン向けのサービスのデモンストレーションが行われた。パソコン向けは,高画質版でも1.5Mb/sのWindows Media形式で,ハイビジョン放送の番組と比べると精細感に欠ける。ただしYouTubeなどパソコン向け動画共有サービスの映像にありがちなブロックノイズが目立つようなことはなく,10型台が主流の小さなパソコン画面で視聴するには十分に楽しめる画質だった。このほか,アクトビラのVOD(ビデオ・オン・デマンド)サービス「アクトビラ」や,NTTぷららの「ひかりTV」,富士ソフトのWii向けVODサービス「みんなのシアターWii」などがブースを構え,デモンストレーションしていた。

 動画配信関連では,2007年12月にVODサービス「iPlayer」を開始した英BBCが,講演でサービス開始から約1年が経過した現状を報告した。講演によると,iPlayerは英国でトップのGoogleに次いでアクセスが多い。ピーク時には英国のインターネットのトラフィックの5%をiPlayerが占め,そのうちの半分は,人気順で上位5~6位までの番組視聴によるものである。一般的な利用者は1回のサイト訪問で1~2本(30~60分)の番組を視聴し,若者向けの番組ほどiPlayerで視聴される率が高い。iPlayer利用者の90%が,放送後7日間に限定されている配信期間を短いと感じ,22%がiPlayerがあるため番組を放送で見なくなったと答えた。また,利用者の18%はテレビの大画面でもiPlayerサービスを使いたいと考えているという。

高機能化進む動画配信の事業者側システム

 各社のブースでは動画配信サービスを支えるシステム側の製品展示が数多く見られた。KDDI研究所は,放送番組をネットワーク上のサーバー上に蓄積することで,放送途中でも番組の冒頭に戻って視聴できる配信システムの参考展示を行った。現在HDD(ハードディスク駆動装置)レコーダーで実現している放送番組の「追いかけ再生」と同様の機能を,ネットワーク上のサーバーを利用して実現する。利用者側の端末は,サーバーから配信された映像の受信と操作コマンドの送信を行うだけで高度な処理機能は必要なく,携帯電話機でも利用できるという。モトローラは,放送中の番組を最初から見直せるだけでなく,利用者が録画予約した番組をサーバー側に蓄積したり,属性別に広告を表示し分ける機能を持つ配信サーバー「B1ビデオサーバーファミリー」を展示した。

動画配信で再注目されるメタデータ

 これまで制作側の素材管理や作業効率の向上を目的に運用されてきた動画のメタデータを,IPTVや動画のWeb配信が持つインタラクティブ性と組み合わせ,視聴者に新しいコンテンツの楽しみ方を提案する事例も見られた。

 TBSは野球や陸上競技の番組連動サイトで,競技映像と並べて試合経過の詳細や,選手のデータを表示するサービスを紹介した。メタデータを活用することで,選手のデータ画面から特定の回の打席の映像を呼び出すといった操作も可能で,映像とデータを上手に連動させたサービスとなっている。

 アドビシステムズは,2008年11月11日に発表したばかりのソフトウエア「Adobe Creative Suite 4」をデモンストレーションしていた。この中の映像制作用ソフト「Adobe Premiere Pro CS4」は,編集動画の音声トラックからセリフを音声認識してテキスト化し,メタデータとして動画と一緒に管理できる機能を新たに搭載した。Flash形式の動画に変換する際は,メタデータも含めて書き出せるため,これを元にシーンを検索したり,広告と連動させる作業がしやすくなるという。

 今後は,こうした新サービスや新製品を取り入れることで,動画配信サービスがより便利で使いやすい方向に進化しそうだ。