電子地方政府の実現

 「電子地方政府の実現」事業は、自治団体(地方自治体)における標準的な行政業務システムを開発し、それを各地方自治体共通の電子処理基盤として水平展開させることを主目的とした。取り組みは、市郡区(日本の市区町村に相当。全230団体)における行政高度化、と市道(特別市、広域市、道、特別自治道のこと。日本の都道府県に相当。全16団体)における行政情報化に分類される。それぞれを順にご紹介したい。

市郡区の行政高度化:住民本位の業務プロセスへと再設計

 韓国の基礎自治体である市郡区の庁舎や出先機関は、出生・死亡、転入・転出といった基本的な住民情報が、職員と住民の間で受け渡しされる場所であり、国民にとって最も身近なサービス窓口だ。この窓口における職員の応対の質や、手続きに要した時間に対する住民の印象や評価が、実質的な行政サービスの満足度と直結していることは、韓国も日本と同様である。

 従って、市郡区における行政情報化に韓国が早くから手を付け、電子政府の土台を築いてきたことは、行政サービスの質向上という点からも重要であった。

 しかし、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権以前に行われた情報化は、住民視点に立つ情報化と言うにはまだ物足りなかった。関連する行政機関とのシステム連携は部分的であり、民願(申請や届出、陳情)時に必要な添付書類を減らすという着想も乏しかった。

 そうした中で、盧政権が2003年に策定した電子政府ロードマップに加えられた市郡区における、行政情報化の“高度化”事業(行政情報高度化)では、中央と地方が力を合わせて電子地方政府を実現することが掲げられた。以下に示した6項目は、その達成目標である。

(1) 市郡区業務プロセスを全面的に電子化し、行政システムを再構築する。
(2) 政府の政策課題と、市郡区の重点推進課題を、透明性を確保した上で、一体的に解決できるように情報を共有する。そのために、双方の課題解決に向けた計画や成果、取り組みの履歴などを電子的に管理する。
(3) 窓口担当者と事務方の連携、部署間を結ぶ業務協力や、文書処理プロセスの効率化のために、現行の業務プロセスを住民本位のものへと再設計する。
(4) 民願手続きにおける処理プロセスの公開と、添付書類の減少による、サービスの高度化を図る。
(5) 市郡区における行政情報を統合的に管理するため、情報リソースの所在や分類体系を明確化する。
(6) 市郡区の行政業務システム間のデータと、業務プロセスを有機的に連携する標準的なインフラを構築する。この構築においては、将来構想として挙げられる次世代ユビキタス政府(U-Gov)を視野に入れる。

 上記6つの達成目標を踏まえ、業務要件へより踏み込んだ「12大核心課題」が抽出された。

  1. 行政業務における統合処理および電子化
  2. 行政業務の遂行主体である公務員の生産性向上に資する業務統合窓口の設置
  3. 業務横断的な情報連携基盤の構築
  4. 一元化された報告・統計システムの構築
  5. 現場業務支援基盤の構築
  6. 行政基幹業務システムと連携させた、プロセス管理、進行管理、履歴管理、統計管理などの機能を提供する生産行政管理システムの構築 
  7. 民願サービスの高度化 
  8. 外部の機関や団体との間における、文書やファックスでの各種情報伝達業務をシステム化した協業窓口システムの構築 
  9. 継続的な法制度見直し 
  10. 市郡区情報化の共通基盤の構築 
  11. 市郡区情報化の設計や開発における標準体系(開発環境の定義や、開発フレームワークの標準化など)の確立 
  12. 共通コンポーネント支援システムの構築

市郡区の行政高度化:情報を他部署と共有することで実現

 2004年に、市郡区行政情報の高度化事業におけるBPR(Business Process Reengineering)とISP(Information Strategy Planning:情報戦略策定)が開始され、3段階にわたって推進された。

 2005年9月~2006年12月の間に、市郡区情報化のインフラに対する共通仕様が定められた。2005年12月~2006年8月に高度化1次構築事業、2006年6月~同年12月に同2次構築事業が進められた。2007年1月には、「市郡区行政高度化カンファレンス(conference)2007」と題したイベントが開催された。このイベントの場で、電子政府化を推進する行政自治部(2008年から行政安全部)の次官が、市郡区行政情報システムのブランド名を「セオル行政システム」(「セ」は新しい、「オル」は正しい、という意味)にすると発表した。

 そして2007年2月、それまでの高度化1次・2次構築事業と、共通基盤システム構築事業を総括し、情報化のための標準体系を取りまとめられた。それが、市郡区情報化標準1.0(案)であり、これをベースに、2007年5月から2008年3月までに、市郡区の行政情報高度化(第3次構築事業)と市郡区への導入が行われた。

 3次にわたる高度化事業によって、市郡区では、衛生、女性支援、福祉、環境、民防衛(兵役を終えた民間人が主体になって行う防衛)、地域産業、内部行政(市郡区役所内部における人事、総務、会計などの行政支援業務)、監査、法制、議会、保健、農村、水産、道路交通、文化体育、役所内の企画業務、広報など、17に上る行政業務が、横断的に処理されるようになった。

 さらに、生産行政管理(行政基幹業務システムと連携させる形で、プロセス管理、進行管理、履歴管理、統計管理などを行う業務)、情報連携支援、現場行政支援、報告統計支援、共通コンポーネント支援、協業窓口、電子民願窓口、行政業務統合窓口という、分野をまたがる統合処理を支援する8つのシステムも構築された。

 こうした一連の取り組みを通じて、行政の効率化は大きく進んだ。2003年と2007年の実績を比較してみよう。市郡区行政業務プロセスの電子化率は、53%から75%に改善した。情報連携の継続的な拡大によって、業務間に継ぎ目のない円滑な行政を実現、共同で活用される情報は、184種から550種に大幅に拡大された。 

 その結果、民願処理1件当たりにつき、平均5件にのぼる他部署の情報が共有・活用されるようになった。つまり裏返すと、過去には、国民が1件の手続きのたびに、5カ所も部署を回わって書類を集める必要があったわけである。

 また、現場行政業務における電子化の比率を見ると、115の現場業務機能(市郡区の窓口で直接国民に行う業務)のうちの81(約70%)まで電子化済みである。