2008年11月12日に総務省の電波監理審議会が,NHKのインターネット事業の業務基準について,認可するのが適当との答申を出した。これを受けてNHKは同日に,VOD(ビデオ・オン・デマンド)サービス「NHKオンデマンド」(NOD)の料金体系などを発表した。サービス内容は,「特選ライブラリー」サービスと「見逃し番組」サービスの二つに分かれる。12月1日のNHK放送センター(東京・渋谷)におけるイベントを経て,いよいよNODのサービスが始まった。
NODのサービスのうち「特選ライブラリー」は,視聴料の中心価格帯が315円(税込み,以下同じ)である。レンタルビデオや東経124・128度CS放送「スカパー!」といったメディアを意識したものと考えられる。30分以下の番組は210円や105円という価格で提供し,幅広い視聴者層の獲得を目指す(写真1)。
210円で視聴できる番組には「新日本紀行」や「きょうの料理」,「連続人形劇」,「新3か月トピック英会話」──などがある。105円の番組は「ひとりでできるもん どきドキ!キッチン」や「みんなのうた」,「名曲アルバム」,「まる得マガジン」が代表例である。また,「NHKスペシャル」や「NHK特集」などが中心となる番組については,複数の番組をまとめて購入することで視聴料を15~30%近く割り引く「お得パック」も用意されている。
特選ライブラリーの中では,「おしん」が最も人気を集めるのではないかと筆者は感じている。割引によって1週間単位(6話)で,525円で視聴できるというのはリーズナブルである。またNHK特集の「シルクロード-絲綢の道-」(第1~第6集パック,1575円)や,「アニメ おじゃる丸 傑作選」(5本パック,840円)などのパックもある。
先行する英BBCの「iPlayer」
一方「見逃し番組」では,1470円で1カ月間見放題のパックがある。ただし,「おはよう日本」や「正午のニュース」,「ニュースウォッチ9」などのニュース5番組は,この見放題パックを契約しないと視聴できない。「見放題パック」があるのは「見逃し番組」だけというのが注意点である。
NODを視聴するには,インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)による2Mb/s程度以上の下り回線(実効速度が1Mb/sでも視聴自体は可能だろう)と,ある程度のスペックのパソコンが必要になる。また,デジタルテレビ向けVODサービスの「アクトビラ」や,ケーブルテレビ(CATV)事業者であるジュピターテレコム(JCOM)のVODサービス「J:COMオンデマンド」経由でも視聴できる(写真2)。
NODのようなサービスは海外では「キャッチアップサービス」とも呼ばれ,英BBCが提供する「iPlayer」が先行している。パソコンにブラウジングソフトをインストールすればインターネット経由で,BBCが英国内外で提供するニュースやドラマ,バラエティー、ドキュメンタリーなどの番組を視聴できる。世界的には,「iTunes Music Store」から「iPod」や「iPhone」などにダウンロードして視聴する形態がポビュラーになってきている。
先ごろオバマ次期米大統領が,「YouTube」で方針演説などを配信して話題になった。日本でも,テレビ番組がインターネットの世界で橋頭堡(きょうとうほ)を築けるかどうかは,NODのコンテンツ力にかかっているかもしれない。もっとも,NODは受信料と別体系で運営されるため,著作隣接権の処理には限界があろう。しかしそこは,圧倒的なブランド力を持つNHKの底力を見せてもらいたい。
放送アナリスト