「重要分野として戦略的に取り組む。新たな2台目需要を喚起する」。NTTドコモの山田隆持代表取締役社長は,9月に開催したカナダ リサーチ・イン・モーション(RIM)の新型端末「BlackBerry Bold」の発表会でスマートフォンに対する“本気度”をこう述べた。

 さらに山田社長は,BlackBerryの発表会にもかかわらず,米マイクロソフトのWindows Mobileや米グーグルのAndroidを採用する端末など,「2009年には約10機種を投入したい」とスマートフォンのラインアップ強化を宣言。2009年度はスマートフォンが業界全体で「150万~200万台程度売れる」と予測した。

先陣はiPhone 3G,変わる事業者とメーカー

 無論,年間4000万~5000万台といわれる携帯電話全体の販売数に比べるとこの予測台数は数%に過ぎない。だが成熟したと言われる携帯電話市場の中で,2台目需要を期待できるスマートフォンは,事業者にとって数字以上の大きな存在になっている。

 そんな存在感を先陣を切って事業者に知らしめたのが,米アップルの「iPhone 3G」である。日本ではソフトバンクモバイルが販売する。

 これまでのスマートフォンといえば,通常の携帯電話とは別ラインアップとの位置付けであり,「法人向け端末」などとして区別されていた。日本では携帯電話の機能として当然のように利用できるiモードなどの事業者の独自サービスの利用も制限されており,いわば“外様”扱いだった。

 こうした中でiPhone 3Gは市場の期待を一新に集めて登場した。販売台数は8月末で15万~20万台程度で伸び悩んでいるとの見方はあるが,ある販売代理店幹部は,「スマートフォンとしてiPhone 3Gをとらえれば大ヒット商品。これに続く端末が出れば,従来とは異なる新しい市場が見えてくる」と期待を述べる。

 山田社長の強化宣言に表れているようにNTTドコモも,スマートフォンと向き合う態度を変えつつある。同社は自社の看板サービスであるiモードのメール機能を,BlackBerryやWindows Mobile搭載スマートフォンに対応させていく方針を表明。これまで同社はスマートフォンへのiモード対応を見送ってきただけに,外様扱いを改める方針は象徴的と言える。

 一方,スマートフォンを開発・製造する海外メーカーは,これまで日本の携帯電話市場を特別視していた。日本独自のカスタマイズが発生するなど“手間のかかる市場”との意識があったからだ。だが,こうしたメーカーの意識にも変化が見え始めている。

 「我々は今まさに,スマートフォンと日本のケータイの融合を実現しようとしている」。世界最大のスマートフォン・メーカーである台湾HTCの日本法人HTC Nipponのデビッド・コウ代表取締役社長は,同社が目指す製品開発をこのように表現。日本の携帯電話が培ってきた機能やサービスを取り込む態度を示す。

いいとこ取りでスマートフォンが進化

 これまで欧米を中心に普及してきたスマートフォンは,メールやオフィス文書の閲覧が主な用途で,いわばパソコンを小型にして通信機能を付けた端末だった。

 これに対し,日本で普及してきた携帯電話は,音声端末をベースにして,メール,音楽,動画,カメラ,ワンセグなど個人ユーザー向けの機能を取り込み発展してきた。このように従来のスマートフォンと日本の携帯電話はそれぞれが個別の進化を遂げてきたが,その両者が今,歩み寄って融合しつつある(図1)。

図1●国内の高機能ケータイとスマートフォンが融合<br>独自の進歩を遂げてきた日本のケータイと,企業ユーザー中止に普及してきたスマートフォンの双方の特徴を融合させた新世代の端末が登場してきた。ネット連携を重視,OSがオープン・プラットフォームといった特徴がある。
図1●国内の高機能ケータイとスマートフォンが融合
独自の進歩を遂げてきた日本のケータイと,企業ユーザー中止に普及してきたスマートフォンの双方の特徴を融合させた新世代の端末が登場してきた。ネット連携を重視,OSがオープン・プラットフォームといった特徴がある。
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 他国に先駆けて第3世代携帯電話(3G)を導入した日本は,その高速なパケット通信を生かしたサービスを事業者を中心として独自に展開してきた。携帯ゲームやGPSを使った地図連携機能,音楽配信サービスなどだ。

 そんな状況を海外の端末メーカーは横目で見ながら,3Gの世界的な広がりとともに,“日本的”な機能やサービスをスマートフォンの中に結実させた。海外では,音声端末とスマートフォンは厳然と区別されているため,アプリケーションを後から追加できるプラットフォームを採用していたスマートフォンの方が,新機能の取り込みには向いていたというわけだ。

 さらに,サービスと一体化した日本の携帯電話事業者の垂直統合型ビジネス・モデルをも取り込みつつある。例えば米アップルは,iモードやEZwebといった日本の事業者のアプリ流通サービスのお株を奪う「App Store」を自ら展開中だ。