法人向けにも新世代スマートフォンは変化を遂げつつある。(1)日本のユーザー企業の実情に合わせたソリューションが登場しつつあること,(2)通信事業者とシステム・インテグレータが協力してスマートフォンの導入を手がける体制が強化されつつあること──。この2点がこれまでと大きく異なる。

BlackBerryのPOPサーバー対応を検討

 (1)の例がBlackBerryだ。海外と日本では導入されている企業の業務システムに違いがある。BlackBerryは専用サーバーと組み合わせることで,米マイクロソフトのExchangeサーバー,米IBMのLotus Domino,米ノベルのGroupwiseと連携する。「北米ではこの3つのグループウエアの利用率が約90%。中小企業にも入っている。日本では40%程度に過ぎない」(リサーチ・イン・モーション・ジャパン 製品部門プロダクトマネジメント&マーケティング部 小林盛人マネージャー)と大差がある。

 今後,こうした差を埋めるソリューションが登場しそうだ。開始時期は未定ながらも,NTTドコモはBlackBerryから企業のPOP3サーバーにアクセスする機能の追加を検討している。セキュアな状態を保ちながらメールの送受信ができるという。「日本の企業はグループウエアとメールの運用が切り離されていることが多い。そうした日本企業の実情に合わせたソリューションが必要」(NTTドコモの三嶋ディレクター)との考えから,取り組むものだ。リサーチ・イン・モーションもPOP3サーバー対応への取り組みに協力する姿勢を見せている。

 Windows Mobileを提供する米マイクロソフトは,スマートフォン導入時のハードルを下げるため,ネット上のサービスを拡充する。既に同社が米国などで展開するWindows Mobile向けのExchangeサーバーのホスティング・サービスを日本でも来年春から開始する。料金は月額1000円以下の予定。Exchangeの導入が欧米に比べて少ない日本企業にも有効なソリューションとなりそうだ。

ユーザーのきめ細かい要望に応える

 (2)の導入については,これまでは携帯電話事業者自身の法人営業部門が大企業にスマートフォンを販売するケースが多かった。ただ,中小企業を含めた幅広い販路を確保し,それぞれの企業システムに合わせて端末の機能にまで踏み込んだ対応をするとなると,携帯電話事業者とシステム・インテグレータがより強固なタッグを組むことが不可欠となる。

 当然,これまでもスマートフォンに取り組んできたシステム・インテグレータは存在する。2007年から社内システムとスマートフォンを連携させるソリューション・パッケージを提供しているTISの営業推進本部 営業企画部の内藤稔主査は,「スマートフォンの認知度は高まっており,ユーザー企業に提案するケースは増えてきた」と手応えを感じつつあるという。

 これまではどちらかといえば,単独での導入を進めていた通信事業者側の意識も変わりつつある。各企業の個別の要望に合わせたきめ細かなソリューションを提供するには「外部のシステム構築会社との連携が不可欠。従来,BlackBerryのサーバー・ソフトウエアは,ドコモが直販していた。今後は外部に販売してもらうため,その仕組みを現在作っている」(NTTドコモの三嶋ディレクター)という(図1)。

図1●事業者の直販から外部のインテグレータへシフト
図1●事業者の直販から外部のインテグレータへシフト
従来は携帯電話事業者が直接スマートフォンの導入を進めてきたが,中小企業を含め幅広い普及を目指すため代理店やシステム・インテグレータ経由での導入が増えると見られている。

 特に法人ユーザーは,厳密なセキュリティや個人情報保護に対するソリューションを求めている。その内容は,紛失時のリモート・ロック,パスワード設定の管理,データの暗号化,端末で実行できるアプリの制御など多岐にわたる。これら機能を導入企業のポリシーに合わせて提供する必要がある。スマートフォンを使ったソリューションを提供する販売代理店の兼松コミュニケーションズ 法人営業本部の西牧浩二副本部長は,「携帯電話事業者の中には,端末と回線を売るだけで,ソリューションの提供を苦手としているところもある。端末を売るだけではユーザーは使わないが,各種のサービスと同時に提供すれば売れる。そこに我々代理店が入り込む余地が大いにある」と商機を見いだす。

アプリの拡大が当面の課題

 もちろん,これまでも商品の受発注や配送など特定用途でスマートフォンの利用は進んでいた。そうした用途に特化したバーコード・スキャナと組み合わせた端末が登場するなど多様化している(図2)。ただ,本格的な普及を考えると,「メールを読む」,「稟議書の承認を出す」など一般的なビジネス用途での利便性が決め手となる。

図2●ハンディ・ターミナルとスマートフォンが融合
図2●ハンディ・ターミナルとスマートフォンが融合
ウィルコムのW-SIMを備えるシャープのRZ-H220。背面にバーコード・スキャナがある。
写真1●iPhone 3Gの導入に踏み切ったべリングポイントのマネージングディレクター 執行役員 吉田健之氏
写真1●iPhone 3Gの導入に踏み切ったべリングポイントのマネージングディレクター 執行役員 吉田健之氏

 コンサルティング会社のべリングポイントは10月から,約1000台のiPhone 3Gの導入に踏み切った。外部の企業に常駐することが多いコンサルタントとオフィスとの情報連携に利用している。将来は「iPhone上で研修プログラムを受ける,米国本社から定期的に送られてくるCEOの動画メッセージを従業員が閲覧する,といった使い方も想定している」(べリングポイントの吉田健之執行役員マネージングディレクター,写真1)という。

 現状では「どのような用途で使えばパソコン,シン・クライアント,携帯電話を超えるメリットが打ち出せるか」との問いに対する明確な答えは出ていない。新世代スマートフォンは,ソフトウエア開発キット(SDK)が公開されており,携帯電話と比べて高機能なアプリを開発しやすい。「日本語のアプリを増やすことが喫緊の課題。顧客や外部のシステム開発会社と協力して開発していく」(ソフトバンクモバイル 営業・マーケティング副統括 平野尚也 常務執行役員 法人事業推進本部長)。数多くの有用なアプリが登場し,自由に機能を拡張できるという携帯電話とは異なるメリットが浸透したとき,スマートフォンの本格普及への道が開くはずだ。