個人市場を狙わないと数は出ない──。従来,ビジネス向けだったスマートフォンが,豊富な機能を搭載した個人向け端末へと変貌を遂げている。従来のスマートフォンは,端末によっては操作が分かりづらい部分があった。一般の携帯電話と比べて,利用できる機能も少なく,本体サイズも大きかった。この弱点を補うべく,オープンなプラットフォームに,各種の個人向け機能を取り込み,使い勝手を向上させた新世代スマートフォンが登場した。

 従来のスマートフォンとの違いは,幅広いユーザー層に魅力を訴えるためエンターテインメント性を持たせていること。その具体例が,動画や音楽再生機能の充実だ。これまでのスマートフォンはメールや文書ファイルを表示するといった役割に重きが置かれていたが,個人の趣味などに訴求できる要素が続々と取り込まれている(図1)。

図1●個人ユーザーが楽しめる機能を融合
図1●個人ユーザーが楽しめる機能を融合
対象ユーザーを広げるため,動画や音楽再生といった個人ユーザー向けの機能を追加する端末が増えてきた。

 代表格がiPhoneだ。音楽プレーヤであるiPodの機能を標準で備え,YouTubeなどのネット動画の閲覧を当初から念頭に置いて開発されている。グーグルのAndroidも米アマゾン・ドットコムと提携し,DRMフリーのMP3データをダウンロードできる。

 ビジネス向け端末の代表格だったBlackBerryも例外ではない。NTTドコモが2009年に発売するBlackBerry Boldは,パソコンと接続することでアップルの音楽管理ソフト「iTunes」の音楽データを同期する機能を追加。H.264/DivXなど動画ファイルの再生機能も備えた。

OSの上に独自インタフェースをかぶせる

 操作性の面では,タッチパネルによる操作を可能にして使い勝手を向上させた製品が増えている。これもiPhoneが作り出したトレンドと言える。例えば,従来のWindows Mobileではスタートメニューから小さなアイコンを選択して,再びメニューを選び……といった手順を踏むように,操作に慣れるまでに時間がかかった。この弱点を補うべく,OSが標準で備えるインタフェースではなく,タッチパネル操作による専用のユーザー・インタフェースを導入する端末が登場してきた。

 台湾HTCのTouch Diamondは,HTCがWindows Mobile上の「シェル」となる独自インタフェース「TouchFlo 3D」を開発。画像や音楽アルバムといったデータの一覧を3Dグラフィックスの動きのある画面で表現し,データの内容を視覚的に確認しながら選択・再生できる操作を実現。加速度センサーなどと連携した動きも表現できる(図2)。

図2●親しみやすい操作性へ改善<br>従来のWindows Mobile機はアイコンが小さく,目的の機能が探しづらいなど,操作性に劣っていた。台湾HTCは各種機能を起動しやすくする独自開発のメニューを端末に実装している。
図2●親しみやすい操作性へ改善
従来のWindows Mobile機はアイコンが小さく,目的の機能が探しづらいなど,操作性に劣っていた。台湾HTCは各種機能を起動しやすくする独自開発のメニューを端末に実装している。
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 従来のスマートフォンは両手で持って使うものが多かったが,Touch Diamondは本体の幅を52mmと小型化。一般的な携帯電話と同様に,片手で持った状態で,親指を使って各種の操作ができる。HTC Nipponのコウ社長は「スマートフォンは法人向けなので操作が難しいのではないか,というイメージを払拭したい」と,ユーザー層の拡がりに期待を込める。

 Windows Mobileの開発元であるマイクロソフトも,インタフェースの改良を歓迎する姿勢を見せている。「メーカーや携帯電話事業者が独自色を出すための自由度があった方が,個人ユーザーが求める使いやすさを実現しやすくなる」(マイクロソフト コンシューマー&オンライン マーケティング統括本部 モバイルコミュニケーション本部 越川慎司本部長)ためだ。特に,初心者でも直感的に操作しやすいタッチパネルは,今後もさらなる可能性を追求できるはずと越川本部長は指摘する。