写真●アラクサラネットワークス CTO の林剛久氏
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 「トラフィックの変動に応じてダイナミックに電力を制御する技術を開発し,ネットワークの省電力化に貢献する」──。10月14日に開催したグリーンITフォーラムで,ルーターやスイッチの開発,製造,販売を手掛けるアラクサラネットワークス CTO の林剛久氏が講演し,同社が取り組む最新技術について解説した(写真)。

 講演の冒頭で林氏は,IDC Japanの調査結果を引用し,企業のグリーンITの現状を紹介した。「ネットワーク管理者の約8割がグリーンITに関心があり,1割がすでに何らかの対策を取り始めているという。ネットワークの現場にもようやく省エネ機器が検討されるようになってきた」(林氏)。

 ネットワークにおけるグリーンITにはどんなアプローチがあるのか。林氏によれば,ネットワークを利用してビジネスモデルや業務プロセスのエネルギー効率を高める「Green by Network」と,ネットワーク機器そのものの省電力化である「Green of Network」があるという。「特にGreen by Networkについては,次世代ネットワーク基盤(NGN)の普及により,テレワーク,テレビ会議,SCM(サプライチェーン・マネジメント・システム)などの導入が一層進み,エネルギー効率はますます向上するだろう」と,同氏は展望する。

 一方の「Green of Network」はどうか。「経産省の調査によれば,通信トラフィックは今後急増し,2025年には2006年の190倍になり,同時期にネットワーク機器による電力消費量は13倍になると予測されている。現在,IT機器全体の電力消費量におけるネットワーク機器の占める割合は1割ほどだが,今後は大きなウェートを占めるようになるだろう」と林氏は話し,ネットワーク機器の省エネ化が重要かつ緊急の課題であることを強調する。

集中型のアーキテクチャで高速化と省電力化を実現

 続いて林氏は,具体的な省電力技術へと話しを進める。「ルーターやスイッチの省電力化には2つのステップがある。1つめのステップは,部品やアーキテクチャレベルで処理を高速化し,消費電力を抑えるというもの。2つめのステップは,不要な待機電力などを減らし,システム全体として省電力化を図るという取り組みである。

 アラクサラでは,1つめの処理の高速化には従来から取り組み,すでに製品化されているものも多いという。「例えばルーターでは,LSI技術の進化により,転送性能当たりの電力効率は年率約30%で向上している。しかしそれも,最近はリーク電流が無視できなくなるなど問題が出てきたため,改善効率が鈍化している」(林氏)。

 そこで新たに浮上してきたのが,アーキテクチャレベルでの省電力化技術である。従来,アラクサラの高速ルーターやスイッチでは,処理エンジンを複数に分ける「分散アーキテクチャ」を採用していたが,今後発売する新製品では,処理エンジンを1つにする「集中アーキテクチャ」を採用するという。これによって,「従来は2回必要だったパケット処理回数を1回にし,高速化と省電力化を実現した」と林氏は話す。

 ここで林氏は具体的な数値を使って,新しいアーキテクチャの導入効果を示した。集中アーキテクチャを採用したルータ「AX6308シリーズ」と,従来の分散アーキテクチャを採用した「AX7808シリーズ」を比較すると,「処理能力当たりの消費電力(W/Gbps)を21%削減できた」と強調する。

ダイナミックな電力制御技術の開発に着手

 2つめのステップについて林氏は,「ムダを省く,つまり運用するうえで不要な電力を節約するためのアプローチ」と話し始める。使っていないリソースへの給電を抑止したり,トラフィック処理能力のオーバーヘッドを削減するなどの取り組みを始めている。

 ネットワークのトラフィック量は一定ではない。年々,トラフィックが増えていくという長期的な変動もあれば,一日や一週間単位での短期的な変動もある。これに対してネットワーク機器による電力消費量は一定,もしくはスタティックに省エネモードに切り替えられるだけだった。

 「トラフィックの変動に応じて動的に電力を制御できれば,大幅な省エネになる。これが,今,当社が開発を進めている“ダイナミック省電力システム”だ」と,林氏は語気を強める。

 ダイナミック省電力システムの実現に向け,アラクサラでは様々な要素技術の開発に着手しており,すでに製品化されたものもあるという。例えば,トラフィック変動のパターンに対応して省電力モードを設定する機能などだ。「トラフィックのパターンにもよるが,装置全体で約10~20%の省電力化が図れる」と,林氏は説明する。トラフィックが減少したときにはエンジン部分やインタフェース部分を通常よりも低い周波数で動作させることで電力消費を抑える技術だ。

 最後に林氏は今後の開発課題について語った。「トラフィック変動への適応力を高めていく。変動をリアルタイムで予測し,ルーターの処理能力や回線速度にフィードバックする技術や,パケットを落とさない制御の弾力性を高める技術などに取り組んでいく」と林氏は語り,開発への強い意欲を見せた。