J.フロントリテイリングは傘下の大丸と松坂屋の基幹システム統合を9月に終えた。意見の対立や文化の違いに戸惑いながらも、繁忙期であるお盆明けの統合を断行。消費低迷による売り上げ減少も統合作業の足を引っ張った。だが従業員への教育を徹底して現場トラブルの撲滅を図るとともに、新システムの稼働前日には全店を臨時休業し演習を実施。10億円規模の機会損失を覚悟で万全を図った。

 9月2日、午前11時過ぎ。松坂屋名古屋本店の一室に設けられたシステム統合対策本部。J.フロントリテイリング(JFR)の情報システム部員らは緊張した面持ちで、プロジェクタが映し出すシステム監視画面を見つめていた。

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 この日は大丸と松坂屋の基幹システムを統合した新システムの稼働初日。画面には8店ある松坂屋店舗のシステム統合対策室から、新システムの稼働状況やトラブル報告が次々に映し出される。

 「どうやら目立ったトラブルはなさそうだな」。大丸出身でシステム統合プロジェクトを統括する阪下正敏 理事 業務本部システム推進部長は、ほっと胸をなで下ろした。トラブルとして上がってくるのは、いずれも些細な操作ミスや勘違いと言えるものばかり。入念な準備をしてきたとはいえ、実際に大過なく稼働することを見なければ安心はできなかった。

 稼働6日目には松坂屋の茶村俊一社長が定例ミーティングに出席。情報システム部員をねぎらった。翌日、無事の稼働を見届けたシステム統合本部は解散となった。このとき阪下理事の脳裏には、1年半余りにわたるプロジェクトの苦労が去来していた。

生き残り賭けた合従連衡

 大丸と松坂屋が経営統合を発表したのは2007年3月。同9月に共同持ち株会社J.フロントリテイリングが発足した。経営統合によりJFRは、売上高1兆1000億円余りで百貨店業界第2位に躍り出た。

 当時は大手百貨店同士の合従連衡が加速した時期でもある。3月だけで阪急百貨店と阪神百貨店の経営統合、伊勢丹と東急百貨店のシステム共同利用の動きが表面化。同8月には伊勢丹と三越が経営統合を発表している。

 一連の百貨店再編の口火を切った形のJFR。狙いは大丸と松坂屋の統合で経営規模を拡大して仕入れや価格政策の競争力を強化すること、そしてシステムの統合によるコスト削減だ。

 同社は2010年度の経営目標として、連結営業利益530億円(07年度は426億円)、百貨店事業の営業利益率4.5%(同3.8%)などの数字を掲げている。この目標達成に向けて、経営統合の早期完成や百貨店の収益力強化など、三つの重点施策を設定した(図1)。システム統合は重点課題のうち、経営統合完成に向けた最優先事項となる。

図1●J.フロントリテイリングのシステム統合の位置付け<br>2010年度の経営目標達成に向けて、システム統合を最優先課題とした
図1●J.フロントリテイリングのシステム統合の位置付け
2010年度の経営目標達成に向けて、システム統合を最優先課題とした
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 百貨店業界の経営環境は厳しさを増すばかり。全国の百貨店の売上高は7カ月連続で減少している(図2)。この10月には高島屋(売上高3位)と、阪急と阪神が統合して発足したエイチ・ツー・オー・リテイリング(同5位)が経営統合すると発表。再編機運が収まっていないことを印象づけた。JFRは経営統合1年目のシステム統合で、生き残りを図ったわけだ。

図2●全国の百貨店の売上高推移(日本百貨店協会調べ)
図2●全国の百貨店の売上高推移(日本百貨店協会調べ)
最近は前年同月比で7カ月連続マイナスとなるなど厳しい状況が続いている