大雨が降ると衛星放送の画像が乱れるのはなぜ?

(イラスト・アニメーション:岸本 ムサシ)

  今回の回答者:
今井 一夫
放送衛星システム
企画部 開発研究室長
松村 肇
放送衛星システム
企画部 開発研究室主幹

 台風などで大雨が降ると,衛星放送の画面にノイズが生じて,表示が乱れることがあります。これは,「降雨減衰」が原因で起こる現象です。衛星放送では,衛星からやってくる電波を地上のアンテナで受信して映像を表示します。このとき,衛星とアンテナの間に雨粒の層があると,電波が影響を受けて減衰するのです。

 降雨減衰の影響は,電波の波長が雨粒のサイズに近くなるほど大きくなります。周波数の高い電波ほど波長は短くなり,例えば10GHz程度の電波の波長は約30mm程度になります。

 これ以上高い周波数では,波長が雨粒の大きさに近くなります。すると,電波が雨粒に捕らえられ,水の分子に吸収されて,熱となってしまいます。また,電波が雨粒にぶつかって方向が変わり,拡散することもあります。

 衛星放送では一般に,地上から衛星に向けて17GHz帯の電波で番組を送り,衛星から地上へ12GHz帯の電波で送り返します。17GHz,12GHzといった降雨減衰の影響を受けやすい周波数を使っているため,大雨が降ると画面が乱れるのです。

 降雨減衰の影響が大きくなると,アナログ放送ではメダカ・ノイズと呼ばれるノイズが増え,徐々に画質が悪化します。デジタル放送では,まずブロック・ノイズと呼ばれるノイズが増え,一定量以上の降雨があるとぱったり映像を受信できなくなります。

 そのため,BSデジタル放送では降雨減衰の影響を抑える工夫を凝らしています。伝送速度は速いけれどやや減衰に弱い「TC8PSK」と,伝送速度は落ちても減衰の影響を受けにくい「QPSK/BPSK」という2種類の変調方式で同時に番組を送信しています。普段はTC8PSKを使い,大雨の時には,テレビが自動的にQPSK/BPSKへ変調方式を切り替えるようにするのです。