発売から2年近くを経過したが,残念ながらWindows Vistaは依然として全く尊敬されない存在のままである。Vistaの最大のライバルは,驚くべきことにAppleのLeopardではなくてWindows XP SP3だ。確かに,XPで満足しているなら無理にVistaに移行する必要はない。だが,単なる「Vistaは失敗作」という評判だけでVistaを敬遠するのはもったいない。

 以下に,XPからVistaへの移行を検討すべき10の理由を挙げてみよう。Windows XP SP3は確かによくできているが,比較してみるとVistaの方が多くの点で優れていることが分かるだろう。

理由その1●イメージ・ファイルが少なくて済む:「Symantec Ghost」やMicrosoftが無償で提供している「ImageX」のようなイメージ展開ツールを使ってデスクトップを展開した経験のある人ならわかるが,XPのイメージはハードウエアに依存しがちである。例えば,東芝のノート・パソコンで作成したイメージは,HPやDellのノート・パソコンではうまく動作しないことがある。Vistaは,この点に関してXPよりもはるかに柔軟である。組織全体に展開する場合でも,2種類のイメージがあれば十分なことも多い。

理由その2●快適に使用できるデスクトップ検索をもつ:WindowsとOfficeは10年ほど前から,コンピュータ上のファイルをインデックス化し,それらを検索できるようにするツールを搭載してきた。ただ残念ながら,それらのツールは使いにくい上に,処理速度が遅かった。Vistaでは,検索インデックスの作成はバックグラウンドで静かに実行され,検索速度も飛躍的に向上している。

理由その3●包括的なバックアップ・ツールを内蔵している:XP標準のバックアップ・ルーチンが作成したファイル・セットを使って,一からOSを再構築しようと試みたことはある人はどれくらいいるだろう。これは実は非常に困難な作業である。Vistaでは,コンピュータ全体を単一の巨大なファイルにバックアップするイメージ・ベースのバックアップ・システム「Windows Complete PC Backup and Restore」が採用されており,全体のバックアップ作業を大幅に簡素化している。筆者の経験から言うと,このシステムは高速な上に,異なるハードウエアへのベアメタル・リストアも可能だ。気をつけなければならないのは,バックアップ先のハードディスクのサイズがバックアップ元と同じか,それよりも大きいことを確認することくらいである。

理由その4●話のネタになる:テクノロジに詳しい友人同士で集まったときに,Vistaへの移行を考えていると言ってみよう。会話が大いに弾むこと請け合いだ。真面目な話,Vistaに移行するなどということを口走ると,「どうしてそんなことをするのか」と質問攻めにあうだろう。そういうときは,Vistaに関するほぼ全ての不満(例えば,「過去のバージョンよりも動作が遅い」「ドライバがそろっていない」「下位互換性がない」など)は,XPの発売当初に人々が感じた不満と同じものだ,と言い返せばよい。もう一度言うが,XPが素晴らしいOSだということは,筆者も承知している。XPに満足している人は,そのまま使い続ければよい。だが,人づてに聞いたFUD(恐怖や不安,疑念を煽ること)を理由に,Vistaを敬遠してはいけない。

理由その5●モバイル・データを安全に保護できる:Vistaには,ドライブのデータを暗号化する「Windows BitLocker Drive Encryption」がある。忙しく飛び回る人々にとって,ノート・パソコンは必需品だ。だが,バーや飛行機,タクシーにノートパソコンを置き忘れる事故が,米国だけで2007年の1年間に何十万件も発生している。BitLockerの暗号化システムを利用していれば,たとえノート・パソコンを紛失しても,中のデータを盗まれる心配はない。BitLockerは,Vista UltimateおよびEnterpriseに搭載されている(不思議なことに,Vista Businessには搭載されていない)。

理由その6●機能が向上したグループ・ポリシー:Vistaには,グループ・ポリシーの新しい設定が約700も含まれており,それらを利用することで,複数のコンピュータを一元的に制御できる。Vistaで新たに追加されたオプションには,電源の管理,非管理者ユーザーによる認可されたドライバのインストールの許可,ユーザーがインストールできるデバイスの制限,などがある。

理由その7●堅牢性の向上:Windowsのサービス・プログラムは強力な権限を持っているため,マルウエア作者の格好の標的になりやすい。Windowsのサービスを乗っ取ることができれば,Windows自体を乗っ取れることも多い。だが,VistaではXPよりも安全な方法でWindowsサービスが構築されている。サービスが損害を及ぼさないように,それぞれのサービスが個別の領域に隔離されているのだ。そのため,たとえサービスが乗っ取られても,被害がWindows全体に及ぶ可能性は極めて低い。

理由その8●攻撃者を混乱させるASLRがある:Vistaのセキュリティをさらに高める機能として,様々なコンポーネントのメモリー上の相対的な位置をランダムに変更するASLR(Address Space Layout Randomization)がある。Code RedやNimda,SQL Slammer,BlasterといったWindowsワームの作者は,XPがどのコンピュータでもコンポーネントを同じ位置に読み込むという性質を悪用してきた。ASLRは,その位置をランダムに変更することで,全てのVistaに有効なワームの作成を,非常に困難にしている。

理由その9●イベント・ビューアによるイベントの一元管理:XPのイベント・ログは,自分が使っているコンピュータの情報を把握するのに便利だが,ログはコンピュータごとに別々に管理される。そのため,何十台ものデスクトップを管理したければ,パソコンの間を何度も行ったり来たりするか,サード・パーティのイベント・ログ収集ツールを購入するしかない。Vistaのイベント・ビューアでは,グループ内の複数のシステムのイベントを単一のシステムで一元的に管理できる。

理由その10●そのほかいろいろ:Vistaの細かな改良はまだまだたくさんある。最後に,これらをまとめて紹介しよう。Vistaのディスク・マネージャでは,既存のディスク・パーティションのサイズを変更可能だ。最大でシステムに8Gバイトまでのメモリーを搭載する。Vistaでは,特定のイベント発生時に電子メールで通知するよう簡単に設定できる。デフォルトでLAN Managerのハッシュ値を保存しないように設定されており,1980年代からしぶとく生き残っていた悪名高いセキュリティ・ホールが完全にふさがれている。ReadyDriveとIntel Turbo Memoryを利用して,システムを休止状態からたったの12秒で復帰できる。

 いかがだろう。こうした細かい改良部分まで見ると,読者の皆様もきっとVistaのことを好きになるはずだ。