カルチュア・コンビニエンス・クラブの釜田雅彦執行役員グループIT本部長。同社は、国内最大の書籍販売チェーンであり、国内最大の映画や音楽のレンタルショップチェーンでもある「TSUTAYA」のフランチャイズ支援と直営店運営を中核事業とする

 音楽や映画など娯楽コンテンツのレンタルチェーン「TSUTAYA」は国内最多の1357店舗(2008年10月末)を誇る。経営母体であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)の売上高は2377億円(2008年3月期)に達するが、フランチャイズ支援と直営店運営からなるTSUTAYAはその8割強を担う中核事業である。TSUTAYAは売上高で国内最大の書籍販売チェーンでもある。

 そんなCCCのCIO(最高情報責任者)である釜田執行役員は、ユニークな人だ。国内の大手メーカー系IT(情報技術)ベンダーに約18年間務めた後、1998年夏に飲食店を自力で立ち上げた。その後、店の経営が軌道に乗り始めた99年ころから現在に至るまで、事実上、CCC幹部と個人事業主の2足のわらじを履き続けている。

 「凝った内装デザインなど、自分の理想の飲食店を作ったが、最初はぜんぜん繁盛せず、お客さんの利益をきちんと考えないといけないと痛感した。お客さんは何をしに店に来るのだろうと再考し、それは楽しい時間を過ごすためだからで、それに対して自分にできることは酒や料理の品ぞろえよりもパーティーだ、と考えついた」。釜田氏はこの店舗事業での経験を糧にして、顧客志向で自分にできることを考える姿勢をCCC社内でも貫いている。

 釜田氏とCCCの出会いは、CCCに転職していた前職時代の先輩からの呼びかけだった。「昼間だけでいいので、コンサルタントみたいな形で手伝ってほしい」と頼まれたのだ。頼まれた仕事は、本部と加盟店をウェブシステムでつなぎ、ナレッジ共有したり、商品展示戦略情報を提供したりするシステム「TSUTAYA NAVI」を立ち上げるITプロジェクト。約2年かけて開発が終わった時、CCCの増田宗昭社長から「運営本部長をやってみない?」と誘われた。釜田氏は当時、驚いたという。「運営本部長という役職はITとは関係のない、フランチャイズ店のオーナーの取りまとめ役。そんな重要な役割を(部外者の私に)任せるなんて」と苦笑混じりに語る。

 釜田氏はCCCに2002年に入社し、運営本部長とCIOの両方の立場で、TSUTAYA全店で共通に使える会員カード兼ポイントカード「Tカード」の開発・導入プロジェクトに、かかわった。Tカード導入前は、顧客からのクレームの多さでワーストだったのが「会員カードを店舗間で共通化してほしい」だった。TSUTAYA店舗は大半がフランチャイズで、A店で発行したカードをB店で使えなかったのだ。

 お客さんの要望とは裏腹に、加盟店の7割がカードの共通化に、8割が共通ポイント制度の導入に反対していた。加盟店は「自分が発行したカードを使って他店でレンタルされるのは許せない」という心情だったからだ。共通ポイントシステム使用料も発生してしまう。

 結局2004年4月にTカードの運用を1050店で始めることができたのは、釜田氏の指示の下で本部と全国の支店が一体となって、店舗オーナーを説得して回ったからこそだった。「Tカードは将来性があり、お客さんから見たTSUTAYAの価値が上がる。未来を一緒に作りましょう」と熱く説き続けた。

 そんな苦労の思い出があるだけにTカードへの思い入れは人一倍強い。「Tカード導入プロジェクトは、今のCCCの成長の礎になった。現在ではTカードの提携先企業は約50社・3万店まで広がった。今後さらに提携先を増やし、店舗でのカード提示率も20%、30%と引き上げ、ポイント流通量で圧倒的な1番のカードにしたい」と目を輝かせた。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・ITに閉じたコミュニケーションではなく、実務・IT・経営を加味して話をしようと心がけています

◆ITベンダーに対し強く要望したいこと、IT業界への不満など
・現在、ITベンダーの若い人に講演や指導をしています。私自身がメーカー系ITベンダー出身者で、「メーカー系ITベンダーの若い人が元気になることが、IT業界をもっとよくすることにつながる」と思っているからです

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・JUASの「部門経営フォーラム」に参加しています。昔はメーカー別ユーザー会しかありませんでしたが、今はメーカー別ではなく、一緒になっているから良いと思います。JUASで発表される研究成果がとても有益で、情報共有し合っています。教育についてのプログラムがあれば、当社のITメンバーに受けに行くようにも促しています

◆ストレス解消法
・曲作りやスポーツです