データセンターは、空気を電気で冷やし電気で熱す負のサイクルに陥っている。外気をうまく利用することで、そこから脱出することは可能だ---。ソフトバンクIDCでデータセンターの設計・構築を担う、社長室戦略担当マネージャーの山中敦氏は、こう言い切る。同社が北九州市で2008年10月に竣工したデータセンター「アジアン・フロンティア」は、この考えを取り入れてエネルギー効率を高めた。

 具体的には外気を利用することにより、なるべく空気を冷やさないことにした。データセンターの外部から空気を取り込んでサーバーに供給する「外気冷房方式」である。外気温度が高い場合だけ、冷房装置で温度を下げる。ただ、「真夏日ならともかく、多くの時期は外気でサーバー冷却は可能だと試算している」(山中マネージャー)という。

写真●「ルーバー」と呼ぶ特殊な外壁から排熱を放出する
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 サーバーによって温度が上昇した排熱は冷やさない。そのまま設備の外へ放出する仕組みである。アジアン・フロンティアの外壁は、堅牢さと通気性を両立させた「ルーバー」と呼ばれる形状を採用している(写真)。「都心のデータセンターのように近隣に住宅がある場所では、こうはいかなかっただろう」と山中マネージャーは話す。

 通常のデータセンターであれは、プロセサやディスクの冷却のために空気の温度を下げて供給。温度が上昇した空気を、また冷房装置を使って冷やしてサーバーに送り出す循環構造になっている。ソフトバンクIDCはこの構造を見直した。

 このために建物の構造から見直した。アジアン・フロンティアがデータセンター専用の建物として一から設計、建築する設備である点を利用したのだ。

冷気ではなく、排熱を閉じこめる

 建物内部も工夫した。サーバーの排熱を逃がさない構造を採用したのだ。ラックの背後に排出された熱気は冷気と混じることなくエアダクトを通じて天井に集め、そのまま外部に排出する()。

図●アジアン・フロンティアで採用した「GreenMall」は、外気を利用してエネルギー利用効率を高める技術である
図●アジアン・フロンティアで採用した「GreenMall」は、外気を利用してエネルギー利用効率を高める技術である

 ソフトバンクIDCはこれまで、自社のデータセンター内に「ColdMall」と呼ぶ空調方式を採用してきた。2列に前面が向かい合うラック間の空間を密閉し、そこに冷却用の空気を送り込む。冷気は限られた空間だけに供給し外部に逃がさない構造にすることで、冷却に無駄な電力を使わないというものだった。

 アジアン・フロンティアで採用した構造はその逆である。ホットアイルとコールドアイルを徹底して分ける点は同じだが、冷気ではなく排熱を閉じこめた。「外気を利用することで、大量の冷気を比較的簡単に調達できる。このため、むしろ排熱をコントロールすることを重視した」と山中マネージャーは話す。同社はこの構造を「GreenMall」と名付けている。

 ただ実際にどの程度の期間、空調機を使わずに外気をそのままの温度でサーバー冷却に利用できるかについては、同社も検証中だ。「十分にシミュレーションをしたうえで設計している。ただ、実際に1年間運用してみて、さらに検証したい」と山中マネージャーは話す。