解剖学者/作家/昆虫研究家
現代人にとって、障害となる「壁」は、あなたの外にあるのではありません。実は、あなた自身が壁なのです。
あらゆる情報は、「しょせん済んでしまったこと」
なぜか。それは現代人が、未来を見ているつもりで、過去しか見ていないからです。
インターネットの発達で、現代人は飛躍的にたくさんの「情報」を手に入れることができるようになりました。こうした「情報」をたくさん集めて何に使うのかというと、「新しいこと」を生むためです。あるいは「未来」を予測して、失敗しないようにするためです。
けれども考えてみてください。
いくらたくさん「情報」を集めようと、それはすべて「過去の積み重ね」「済んでしまったこと」にすぎません。それだけを眺めていても、未来に起きることを見越したり、新しいことを発見したりすることはできないのです。
いま、流行の言葉に「危機管理」、英語でいうと「リスクマネジメント」というのがありますね。よく考えてみると変ではないですか? そもそも「管理」できるのであれば、それは本質的な「危機」ではありません。いまの段階で「管理」できないからこそ、「危機」のはずなのです。
情報化の象徴のような金融の世界、しかもその先端を行くアメリカの金融業界でリーマン・ブラザーズが破綻し、保険会社のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が国の管理下に入ったのがいい例ではないですか。あそこで働いていたみなさんは、情報集めのプロばかりでしょう。
なのにつぶれた。それも突発的に。危機を管理できなかったわけです。いかに過去の情報から未来など予測できないか、というまさに証明です。
私からすると、現代人は未来を見据えて歩いているつもりでいて、実は後ろ向きに「情報」という名の過去ばかりを見ながら歩いているように見えてなりません。
いくら豊富な情報があろうと、それは過去にすぎません。本当に未来を見据えたければ、まず、前を見なければダメです。
では、前を見れば、未来が見通せるのか? 見通せるはずはありません。人間は神様ではないのですから。格言通り、常に「お先は真っ暗」なのです。
じゃあどうすればいいのでしょう?
そこで今や死語になった言葉があります。「覚悟」すればいいのです。どんなことがあっても「覚悟しておけば」どうということはありません。その都度対処すればいいのです。
と、ここまで書けばおわかりでしょう。
情報をたくさんかき集めて未来を見据えているつもりで、後ろを向いたまま歩いている自分。これがあなた自身の「壁」なのです。
この「壁」を越えたければ、まず足元から前を見て歩く。それが最初の一歩です。そうやって「覚悟」を決め、己の体と己の智慧を振り絞って生きていけば、実は未来はちっとも「真っ暗」ではありません。ちゃんと「明るい未来」が見えてくるのです。(談)
解剖学者/作家/昆虫研究家