文字と図形を組み合わせた情報記述法「マインドマップ」をご存じの方は多いだろう。個人の情報整理・発想ツールとして認知度が高まりつつあるマインドマップは、人と人との情報伝達や意思疎通を促すコミュニケーションツールとしても役立つ。コミュニケーションがカギを握るソフトウエア開発の現場で、マインドマップがどう生きるのか。マインドマップの“ヘビーユーザー”である著者に利用法を解説してもらった。

平鍋 健児 チェンジビジョン 代表取締役社長

イラストレーション:AKIRA
イラストレーション:AKIRA

 ソフトウエアの開発作業に携わり始めた人の多くが、コンピュータに向かってプログラミングをするだけでなく、「人と会って話をする」時間が多いことに驚くはずだ。

 ユーザーから要求を聞き出す。他のエンジニアと会話しながら、ソフトを使いやすくするためのアイデアを膨らませる。時間やコストの兼ね合いで削らなければならない機能について、ユーザーの理解と合意を取りつける。こうしたコミュニケーション活動がソフト開発の本質にかかわることは言うまでもない。

 筆者はソフト開発の現場で、「マインドマップ」をコミュニケーションツールとして積極的に使っている。マインドマップは英国出身のトニー・ブザン氏が1970年代に発明した情報記述法である。木の枝のように線を描き、そこに文字要素を書き加えるという記法が特徴だ。情報を整理したりアイデアを発想する際に、特に役立つ。ここ1、2年で解説書が一気に増えたので、ご存じの方も多いだろう。

 言葉に加えて線や囲み、色を使うことで要素の区分けや序列が見えてくる。図やイラストを入れると情報が豊かになりインパクトも強まるので、情報全体を記憶しやすくなる。詳しくは後述するが、マインドマップはこれらの要素をすべて兼ね備えている。

 マインドマップはコミュニケーションの場でも大いに威力を発揮する。情報を整理し共有する。アイデアを出し合う。議論の焦点を明確にする―。言葉と図を組み合わせたマインドマップは、数々の場面でコミュニケーションを活性化させる。

 学びに年齢は関係ないが、特にこれから本格的にソフト開発の仕事に携わる20代の人は、マインドマップを使う習慣を身につけてほしい。日々の業務遂行やスキルアップを助ける強力なツールとなるだろう。本稿ではマインドマップの構成や記法を簡単に紹介してから、ソフト開発の現場での活用法を紹介する。

言葉と図両方のメリットを享受

 まず図1をご覧いただきたい。「マインドマップの特徴を説明するマインドマップ」である。中心にあるのは、このマインドマップで扱う主題だ。「マインドマップ」というキーワードと、ひらめきをイメージさせる電球の絵が描かれている。

図1●マインドマップの特徴をマインドマップで説明した(作成:水越明哉)
図1●マインドマップの特徴をマインドマップで説明した(作成:水越明哉)
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 中心からは5本の枝が放射状に伸びている。それぞれの枝には「って?」「描き方」「何に?」「Tool」「利点」というキーワードを添えている。これらはマインドマップを説明するうえで最初に思いつく中心的な話題を示している。書籍でいえば各章の見出しに当たる。これを基本アイデア(BOI:Basic Ordering Ideas)と呼ぶ。

 それぞれのBOIのカテゴリに入るキーワードを思いついた場合、BOIから周囲に向かって枝を分岐させ、キーワードを書き添えていく。図1ではマインドマップの用途として「自己紹介」や「ToDo管理」を思いついたので、「何に?」というBOIから枝を伸ばしてキーワードを書き込んだ。各キーワードについてさらに関連するキーワードが思い浮かんだら、枝を追加していく。

 このようにマインドマップでは、右脳が得意とする図や色と左脳が得意とする言葉を組み合わせて、情報を放射状に構成する。情報を整理する目的で使えば、情報の分類を横断的に把握しやすくなる。アイデアを出す目的で使えば、主題や関連キーワード、ほかのキーワードを考慮しながら発想を広げられるメリットがある。一覧性に優れているので、記憶にも残りやすい。

 マインドマップは紙とペンを使って手で描くと脳が活性化すると言われている。だがそれにこだわる必要はない。マインドマップを描くためのソフト製品もいくつか出ており、それを使って描くことも可能だ。時と場合に応じてやり方を使い分けるとよいだろう。